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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
このROCKY通信では、僕が社会起業家の育成・支援に携わっている中での経験や僕自身の人生での学びや考えをシェアさせていただいています。
皆様の起業のお役に立てられましたら幸いです。
クリスマスイブに予定していた「やまぐち社会起業塾」の最終発表会が、21日土曜日に旧県会議事堂にて無事行われた。1ヶ月の延期となったわけだが、結果的には塾生のさらなる踏ん張りに伴走支援者の皆さんの加勢もあり理想的な「場」を実現できたと思う。
塾生の皆さんは、本当によくやってくれたと思う。仕事をしながら半年間のアウトプット型プログラムはきつかったと思う。満を持した発表会は年末の寒波による大雪で急遽延期となり、一旦は燃え盛っていた炎が落ちてしまった。そして年末年始はコロナ罹患者や体調不良者が続出し21日を発表日に決めたものの、内心本当に開催出来るのか不安に思っていた。
会場の旧県会議事堂は明治から大正にかけて創られた歴史的建造物で国の重要文化財に指定されているルネサンス様式の美しい白亜の殿堂で、観光名所にもなっている。ボールルームなどは小学生の時に社会の教科書に載っていた鹿鳴館を想起させるほどだ。その中の旧議場を使って発表は行われた。
今回あらためて感じたのは、ソーシャルミッション(自らが果たすべき社会的使命)を見つけた人の強さだ。やりたいな、出来たらいいな、ではなく課題解決は「俺が、私がやらねば!」というミッションレベルまで落とし込めていたので、12人の塾生たちは自らの力で火起こしを行ってくれた。そのプランはいずれも完成度が高く、人によっては12月の後半で5割増しの伸びを見せてくれた。
今回の事業計画書は椅子に座って書いたものではなく、伴走者を介してそれぞれの分野のキーパーソンに会いに行ったり、課題当事者や顧客にヒアリングしたり、「行動」を伴ったものだけに説得力も増した。たった10分のプレゼン時間の下には数百時間の「インプット→思考→行動→アウトプット」の繰り返しのプロセスが塊として存在しているのだ。
全員の発表内容をご紹介したいのだが、ここでは今回表彰された2人のプランについてお話ししたい。
まずは「共感賞」を受賞した川北真三郎さんから。この賞は会場に来られた一般県民である傍聴者の投票で「この人のプランを応援したい!」と共感の思いが寄せられた人に贈られる賞。選んだ社会課題は小・中学生への防災教育。川北さんは現役の消防士であり防災のプロである。
これまでの20年以上に渡る多くの被災地での現場経験から、小・中学生への防災教育を徹底することが、近い将来予想される南海トラフ大地震等を乗り切る根本解になるとの結論に達した。そして防災教育を主とするNPOの立ち上げを決意した。川北さんの知見をベースに書籍、映像、アプリを作り、時間に追われる学校の先生に代わって子供たちに防災教育を施すというものだ。またそこには地域住民との連携も含まれている。団体名は「零ZERO」、被災者ゼロを本気で目指す取り組みだ。
次にYSE大賞を受賞した中川孝典さんだ。YSE大賞は伴走支援者という今回のプログラムに参画してくれた各界のプロフェッショナル(経営者、投資家、マーケッター、大学教授、弁護士、会計士、政治家、金融マン、県職員、メディアマン等)の投票によるものだ。YSEはYamaguchi Social Entrepreneursの略称。12人の伴走者の意見がほぼ全員割れるという前代未聞の出来事が起きたが、決選投票を繰り返した末に選ばれたのが中川さんのプランだ。
中川さんは大学院で地質学の博士過程を修了した若き研究者。社会課題は秋吉台、秋芳洞などで世界的にも有名な美祢市の地域活性化だ。専門とする化石群、鉱物群、地層・地質・地形といった地域の資産を題材にした。プランはなんと地質研究者の描いたスケッチ、ドローイングをアート本として世に送りだし、地質学をわかりやすい形で観光客に楽しんでもらい、結果的に美祢への好奇心、関心を高めてもらおうというもの。また売れたアート本の収益は若い研究者たちの基礎研究費に還元させるという。
付けた社名は「ヘッケルスタジオ」。中川さんの敬愛するヘッケルという微生物スケッチで有名なドイツの生物学者の名前から取ったもの。 NHKのブラタモリの影響もあり、地質学はさらに盛り上がる可能性も秘めており、この斬新な試みを成功させてほしい。
いずれのアイデアも、まず地元山口でプロトタイプができれば日本国中にもしくは世界にも波及できる可能性を秘めたものだと言える。実際、傍聴者からもそのような声がいくつか上がっていた。
塾生の皆さん、そして伴走支援者の皆さん、半年間にわたり大変ご苦労様でした。塾生の多くが何らかの形で社会起業に携わってくれることを期待しています。