企業訪問レポート

NPO法人ダイアログ・イン・ザ・ダーク

暗闇の中の対話

暗闇の中では見えないもの、暗闇の中でしか見えないもの。"見る"という言葉は適切ではないかもしれない。"感じる"という言葉の方がよいだろうか。

ダイアログ・イン・ザ・ダーク。それは、暗闇のエキスパートであるアテンド(視覚障がいをもつ人)のサポートのもと、完全に光を遮断した空間の中を何名かのグループで入り、さまざまな体験をする、まっくらやみのソーシャルエンターテイメントである。 暗闇の中の対話。つい、真っ暗闇、ということに注意が向いてしまうが、あくまでも主役は"対話"であろう。参加者同士の対話。

アテンドとの対話。その空間に存在するあらゆるものとの対話。社会との対話。そして自分自身との対話。 5月21日、ダイアログ・イン・ザ・ダーク代表の金井真介氏のオープンセミナーの前に、ダイアログ・イン・ザ・ダークを実際に体験する機会をいただいた。場所は、千駄ヶ谷駅から徒歩10分ほどのビルの地下。当日は雲一つない快晴で、これから体験する暗闇とのギャップをより際立たせる演出がされているようであった。

ダイアログ・イン・ザ・ダークの体験

完全に光が遮断された暗闇。それは瞼を閉じて生まれる暗闇とは違う。瞼を閉じても、開いても、そこは完全な暗闇だ。空間に入り、徐々に光が消えていく中で、不安、心細さを感じる。そのような中で、グループで体験していることで、仲間がいることの心強さが支えとなる。見えないことの不安・恐怖は自分が想像した以上のものであった。他の参加者との身体的な接触を失うこと。視覚的に誰かの存在を確認できれば安心できるが、暗闇の中ではそれができない。心細さがあふれ出し声を出しコミュニケーションを求めた。そんな中で、目には見えないが、視覚障害をもつアテンドスタッフが私たち参加者を優しく見守っていることを感じることができた。そこで感じられるのは安心感。

暗闇を抜け、光のある空間へ。「見える」世界へと戻る。それぞれがイスに座り、参加者とアテンドスタッフが体験を振り返る。

のちの講演の中で、金井氏はその時に何が起こっていたか、問いかけた。暗闇の中の「見えない」世界では、視覚障害を持つアテンドスタッフに私たちはサポートしていただいた。では、暗闇を抜けた光のある「見える」世界に戻った時、その部屋で椅子に座るときに、私たちはアテンドスタッフをサポートしたか?

自分の行動を振り返る。見えない世界から、見せる世界に戻り、そこで自分に見えていたのは、自分だけであった。真っ先に椅子に座り、アテンドスタッフにはまったく配慮できていなかった。自分の行動を振り返り、愕然とした。

立場は環境によって変わりうる。普段自分自身が身を置く環境が、ある人たちにとっては当たり前ではない環境となりうる。そこに思いを巡らすことができるか? 想像力、思いやりはどこへ行ってしまったのか?

今回の体験を、いかに行動につなげていくか。頭で理解したことと、それを行動すること。頭で理解するだけでは、不十分なのだ。理解や気づきを行動につなげていかなければならない。立場の逆転。ダイアログ・イン・ザ・ダークは、今まで当たり前すぎて気づいていなかった、多くの気づきときっかけを与えてくれる。

日本での取り組み

金井氏は、日経新聞の小さな記事に、ヨーロッパでは眼で見えない展覧会が開催されて、人気を博しているということを知った。それがダイアログ・イン・ザ・ダークとの出会いであった。1989年にドイツで生まれた、まっくらやみのソーシャル・エンターテイメント。これまでに、世界30か国・約100都市で開催されている。

すぐに発案者のアンドレアス・ハイネッケに手紙を送り、日本での開催を目指した。日本での開催に当たり、さまざまな障壁があったが、その障壁の一つに会場を完全な暗闇にすることに対する消防法の問題があった。その大きな障壁も、時間をかけながら"対話"を続け、ダイアログ・イン・ザ・ダークを知ってもらい、体験してもらい、そして乗り越えていった。日本では、1999年から毎年開催され、参加者は7万5千人を超える。

「〜できること」ではなく「〜できないこと」が条件

ダイアログ・イン・ザ・ダークは、視覚障がい者の雇用の実現を目指す。ダイアログ・イン・ザ・ダークでは、「〜できること」ではなく「〜できないこと」がアテンドスタッフの雇用条件となるのだ。つまり、「見えないこと」だ。

私たちは、「できないこと」から何かを見出そうとは、なかなか考えられない。何かを見出そうとするときには、私たちは「できること」に目が行きがちであるが、「できないこと」から見えてくるもの、生まれてくるものがある。

「できること」と「できないこと」は文化の違いでしかないのかもしれない。その違いに優劣をつけるのではなく、その違いを認め、受け入れ、理解する。そのためには、"対話"が欠かせない。

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