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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
このROCKY通信では、僕が社会起業家の育成・支援に携わっている中での経験や僕自身の人生での学びや考えをシェアさせていただいています。
皆様の起業のお役に立てられましたら幸いです。
熊平美香さんは、経営者、非営利組織代表、教育者そして行政役員などいくつものお顔をお持ちの方だ。近年は分野を問わず教育を切り口とした取り組みをテーマとされており、多くの実績を残して来られた。欧米のマネジメントや教育への造詣が深く、良きものは日本にも取り込めればと実践されて来られた。そして今回はその集大成ともいえる近著「リフレクション」を著され、その内容についてご講演頂くこととなった。
僕個人としては「自分らしさとは何なのか?」「自分らしさはどのようにして発見できるのか?」のヒントが多く含まれている点に好奇心を刺激される。社起大関係者はぜひそのような観点からも聞いて頂きたい。まだ明日の19時まで参加登録の時間はあるので、ぜひご傾聴いただきたい。
講義の主題は学習する組織つまり「自律型の組織とはどのようにして作ることができるのか」なのだが、その中核概念となるのは本のタイトルにもある「リフレクション」という手法だ。メタ認知の4点セット(意見、経験、感情、価値観)を使って、5つのリフレクション(自分を知る、ビジョンを形成する、経験から学ぶ、多様な世界から学ぶ、アンラーンする)を行うというのが中心骨格である。
詳しいところは、明日水曜の講演で熊平さんから直接ご教示いただくので楽しみに取っておくとして、ここでは僕が熊平さんの「リフレクション」を読んで興味を覚えたこと、印象に残ったことについて列記してみた。
1.書中でタフな質問が2つあった
(1)「あなた(わたし)はどうしたいのですか?」
(2)「あなたの組織がこの地球から消えてしまったら、この世は何を失いますか?」
(1)は昭和生まれには堪える質問だ。決まりきった価値観が社会を支配する中で、その物差し通りに生きてきた人が多いからだ。この質問に迷いなく答えられる人は自分軸をしっかり持った人だが、もし答えられなければ今から答えらえるようになればいい。年齢も性別も経歴も関係ない。そこから自分の人生がひらけてゆくことになる。平成生まれはバブル崩壊後を生きているので苦労している分、実は自分軸を懐に持っている人が多いと思われる。
(2)は属している組織のパーパスとも関係しているが、民であれ公であれ組織であれば最終判断は顧客を中心とするステークホルダーが判断を下すことになる。消えてしまっても世間は何も失わないという組織は存在価値が無いので、いずれはフェードアウトしてゆく運命にある。その場合は組織内にてミッションの再検討の後、戦略の練り直しも必要であろう。
このシンプルでいて深い質問に、今回の特別対談後にはきっと皆さん答えられる光(筋道)が見えると思う。
2.メタ認知力を使って「自分を知る」
メタ認知とは高次の目線で自分の考えや意見をどうしてそう思うに至ったかを分析する方法。客観的内省ともいえる。今回はそれを4点セットの意見、経験、感情、価値観に切り分ける。そして自分という人間が過去の知見から形成してきた独自のものの見方を知る。
またこれを「対話」を通じて他者のケースに適用すれば、柔軟な思考ができるようになりダイバーシティの醸成にもつながる。日々忙しく働いている人には中々そのようなことをする暇もないだろうが、このプロセスに時間を割くことは重要だ。その時間は後で何倍にもなって返ってくるであろう。
3.未来志向のリフレクション
リフレクションの目的は経験からの学びを未来に活かすこと。成功してもそして失敗しても経験したからこそ知り得たことがあるわけで、その経験を知識に変えることができるという信念がベースにある。経験を客観視することで失敗をポジティブに振り返り、「出来ない」と決め込むのでなく「これから出来るようになる」と未来志向になることが大事だという。
またリフレクションを通じて、経験の中に普遍的な法則性を見出すことが出来、それにより持論がアップデートされる。内省というと、なんだかネガティブなイメージが強いが、ここではあくまで前向きな振り返りでありあらゆる経験は成功の種という発想だ。経験をリフレクションして、普遍性のある法則を見出して持論(古い殻、固定観念)をアップデート或いは刷新しようとういうのだ。実にワクワクする話ではないか。
4.対話を通じて可能となる「自己の檻」からの脱出
対話は自分の内面を客観視するリフレクションの機会であり、自分の境界線の外(他者)から学ぶ機会となる。そのゴールは自分の主張の正しさの証明や他者の賛同を得ることではなく、自分の意見を題材として対話を通じ最良の答えを出すことにある。ここでのポイントは、自分の考えに固執せずに評価判断をいったん保留にすることが肝心だと。それが出来て初めて自分の枠の外に出ることができるから。なかなかできることでは無い。
しかし一方で、傾聴した結果相手の意見に「賛成」する必要は無く、代わりに「共感」する必要はあると。ここでいう「共感」とは相手の意見の背景(価値観)を理解し尊重する姿勢と理解した。社起大でもクラスメートとの対話を通じて気づきをもらい、新しい自分の発見に至る人は実際に多い。
5.アンラーンで実現する自己刷新
アンラーンとは自分の過去の成功体験とそこで得た価値観や判断基準を手放し、新しい成功に向けて固定観念を捨て去り、新しいものと取り替えること。柔軟性を持つとはそういうことだと。パソコンでいうとOSの入れ替えやバージョンアップだ。これはかなり難易度の高い作業で自分によほど自信がなければ出来ないと思う。「恐怖心」との戦いだと熊平さんも言っている。提唱されているリフレクションの5つの対象のうち、最も困難なものだと思われる。ソフトバンクの孫さん、ユニクロの柳井さんはこれを実行されているように見える。
熊平 美香さん
昭和女子大学キャリアカレッジ 学院長
一般社団法人21世紀学び研究所 代表理事
ハーバード大学経営大学院でMBA取得後、金融機関金庫設備の熊平製作所・取締役経営企画室長などを務めた後、日本マクドナルド創業者に師事し、新規事業開発を行う。
1997年に独立し、リーダーシップおよび組織開発に従事する。
2009年より日本教育大学院大学で教員養成に取り組む傍ら、未来教育会議を立ち上げ、教育ビジョンの形成に尽力。
2015年に一般社団法人21世紀学び研究所を設立し、リフレクションの普及活動を行う。昭和女子大学キャリアカレッジではダイバシティおよび働き方改革の推進、一般財団法人クマヒラセキュリティ財団ではシチズンシップ教育に取り組む。Learning For All等教育NPO活動にも参画。
文部科学省中央教育審議会委員、内閣官房教育再生実行会議高等教育ワーキンググループ委員、国立大学法人評価委員会委員、経済産業省『未来の教室』とEdTech研究会委員、などを務める。
2018年には、経済産業省の社会人基礎力に、「リフレクション」を提案し、採択される。著書に 「リフレクション 自分とチームの成長を加速させる内省の技術」(ディスカヴァー・トウエンティワン)がある。