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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
このROCKY通信では、僕が社会起業家の育成・支援に携わっている中での経験や僕自身の人生での学びや考えをシェアさせていただいています。
皆様の起業のお役に立てられましたら幸いです。
昨今、事業承継という社会課題が地方創生と同じくらいのウェイトで語られている。高齢化社会、人口減少といった根本的な社会課題とも連動している。事業承継は独立という括りでいうと、起業と並ぶ選択肢である。すなわち現在サラリーマンをしている方の選択肢として転職を除けば独立がある。その独立とは社会起業、ビジネス起業と並び、事業承継も選択肢となる。これまでにも存在した独立の一形態だが、ここ数年大きくクローズアップされている。来週17日(水)に日本政策金融公庫さんより「事業承継のプロ」をお呼びして特別セミナーを開催するので、ご関心のおありの方はぜひお気軽にご参加してみて頂きたい。
企業はゴーイング・コンサーンと言って理屈の上では健全である限り永続できる可能性を秘めた組織体である。人間が作り出したものとしては、不死を叶えることのできる数少ない存在なのだ。しかし、その盲点は組織自体は人間が運営してゆくという点だ。人間の生命は有限であること、また人間は不完全である以上、単体としての永続の可能性は限りなく低いといえよう。そして今回のテーマである小規模事業では、継承者がその内部に居ないという理由で減少し続けているという。
高齢化社会となり、彼らが運営してきた小規模事業は、身内や社員からの承継者が居ないとなると、外部にそれを求める以外はない。その候補となるのは起業・独立希望者、M&Aを模索する中規模企業だ。最も良いパターンはM&Aが成立し、雇用も引き継がれるケースであろう。しかしM&Aは少しでも高く売りたい売り手と、少しでも安く買いたい買い手が前提なので、中々簡単にマッチング出来るものではない。それ以外にも現オーナー一族や既存社員の再雇用の条件などの付帯交渉もある。
小規模事業者であれば、利益がしっかり出せている或いは特許などで排他的な資産を持っているとか、仮に赤字であっても地域でのシェアがダントツであるとか特筆した理由があれば中規模企業等がM&Aしに来る可能性は大いにあるだろう。が、しかしそこに漏れてしまった小規模事業者は起業・独立したい人を後継者として迎え入れるか廃業するしかないというのが実情ではなかろうか。今お手伝いさせて頂いているのだが、外国人による国内起業同様に、将来的には彼らによる事業承継の可能性もあるかもしれない。
先に結論を言ってしまえば、経営改善の余地が無いと判断された小規模事業は酷だが廃業するしかない。企業は不死であっても、その実態は人間だ。商品やサービスは経年で陳腐化し、いつかは市場から消えてゆく。企業も同じで、盛衰の結果、新陳代謝の宿命にある。企業の大小を問わず、自然界の生物と同じくそこにはライフサイクルがあるのだ。
事業承継の最大のメリットは、既に市場つまり顧客が見えていることである。そこが起業とは決定的に異なる。つまりスタート時点(承継時点)で売上の目処を立てられるのだ。ゼロから市場を掘り起こす必要はなく、商品・サービスの改善あるいは新商品を開発し既存顧客に売り込めば良い。ブランドも既に存在している。つまり起業した場合の市場形成に要する時間を買えるのである。大企業や上場したばかりのベンチャー企業がM&Aに走るのはその理由が大きい。さらにコスト構造も既に見えているので、そこに改善を加えれば良い。
ただ事業承継というと、何かいいことをするかのような響きがあるが、財務状況によほど問題がある場合を例外として、基本無償という訳では無い。事業承継は大きな括りで言えば、M&Aの一部である。そして取るべきリスクも原則承継側にある。買い取る前に自らデューデリジェンス※も行わなければならない。ゼロイチ起業に創業リスクがあるのと同様に事業承継にもリスクはある。
私見を言えば、総論として事業承継の方が起業よりもハードルは低いように思う。人によってはゼロイチで全部自分の意思どおりにする方が、継承するよりも楽だという人もいる。僕はその口の人間だ。事業継承には一定の目利きの力が必要だが、時代の流れもあり、今後多くの承継案件が世に出てくるであろう。事業承継の利点、欠点をちゃんと理解した上で、起業を夢見ている若者、サラリーマンをしつつ独立チャンスをうかがっているミドル、退職後のライフワークを模索しているシニアといった人々にはチャンス到来とも言える。
まずは来週17日(水)開催の社起大特別セミナーを覗いてみて頂きたい。すぐに独立を考えていない人でも、将来の選択肢に新たな1ページを加えることのできる絶好の機会になると思う。
※デューデリジェンス:契約の前に、買い手側が売り手側の企業の実態について徹底的に調査を行うこと