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【 ROCKY通信 】第83回 山形のクラゲ水族館 パート1「経営戦略」編

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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
 

このROCKY通信では、僕が社会起業家の育成・支援に携わっている中での経験や僕自身の人生での学びや考えをシェアさせていただいています。
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【 ROCKY通信 】第83回 山形のクラゲ水族館 パート1「経営戦略」編

 

3mある巨大クラゲ水槽

 

以前から噂で聞いていた山形県鶴岡市にある市立加茂水族館(愛称:クラゲ水族館)に2年前に行ってきた。東京からは新潟経由で5時間がかりで実に遠かったのだが、感動の体験が出来た。そこには想像を超えた波乱万丈のヒューマンストーリーがあったからだ。まさに現代の“ヒーローズジャーニー”そのものだ。またそこは経営戦略、リーダーシップの学びの宝庫でもあった。「地方創生」などという言葉もなかった昭和の中期から平成にかけて、行政にも民間企業にも見捨てられ、翻弄され続けた辺境の小さな水族館。村上龍男という覚悟の据わった1人の男が身体を張って守り抜き、名物水族館として見事復活させた。現地での村上さんとの出会いという僥倖もあり、その感動は増幅された。ロキ通では今回と次回の2度にわたりご紹介するが、今回はクラゲ水族館の「経営戦略」にフォーカスしたストーリーを。

 

加茂水族館

 

加茂水族館は1964年、鶴岡市立水族館として東北初の水族館として産声を上げた。小さいながらも昭和の経済成長期の水族館ブームに乗り、年間入館者数は20万人を超え大いに賑わった。しかし、、、その後集客に苦しみ入館者数は減り続け1997年には9万人の入館者となり閉館の危機に。その間にオーナーは、鶴岡市→地元第3セクター→東京の専門商社→鶴岡市、と変遷し転売を繰り返され不安定な経営環境下にあった。手負いの加茂水族館は、当時人気スターだったラッコやウーパールーパーも導入して集客を図ろうとしたが、経営トレンドは坂を下り続けるばかりであった。そんな最悪の状態の時、飼育員がたまたま水槽内のサンゴの側で微かに動いている数ミリの生物を発見。クラゲの赤ちゃんだった。試しに2ヶ月ほど飼育すると3センチほどに成長。展示してみたところ来館者から「カワイイ!」と予想外の反応。村上さんは早速本格的な飼育を指示した。

 

入館者推移

 

それまではTVで取り上げられるような人気のある動物、生物を展示することが集客の肝だと決めつけていた村上さんは、頭を切り替え館員とともに水族館の目の前にある日本海にボートを漕ぎだした。そして玉網でクラゲを採取し、研究し飼育する日々が始まった。少しずつ種類を増やし、5種類になった時点で昨対客数が上回り始めた。自分たちの独自の取り組みで成果を見たのは開館30年で初の出来事。「これはイケるかも!」と思ったそうだ。2000年には12種類となりクラゲにおいては日本一の水族館となった。そこに16種という世界一のクラゲ展示を誇る米国のモントレーベイ水族館に挑む。当時研究員だった奥泉さん(現館長)が同水族館の視察に派遣される。そこから10年後の2012年、30種類のクラゲの展示を行いついにギネス世界記録認定される。その広告宣伝効果も手伝い、2014年には入館者は約72万となり開館以来の過去最高記録を達成した。 

 

美しく可愛いクラゲたち

 

以上ざっとクラゲ水族館をご存知ない方のために駆け足のご案内をしたが、「経営戦略」の観点から見てみると、皆さんもいくつかのポイントに気づかれたことであろう。

  1. 経営資源に乏しい小さな地方水族館で、クラゲというマイナーな生物に展示を絞り込んだこと(選択と集中)
  2. クラゲという競合の少ないニッチ市場で、その展示数において日本一、世界一と階段を駆け上ったこと(勝てるKPI設定)
  3. クラゲは眼下の海で取れ、仕入原価がほぼ無料といえると同時に地域性を打ち出せたこと(コストリーダーシップ)
  4. 差別化されオリジナリティがあるため、目的来館型施設(わざわざ来る)となり広域集客ができること(超差別化による享受メリット)
  5. 自分らしさ(自社らしさ)の強みは自分の中に、自分の足元にありというSECメソッドにも通じる視点(宝は身の内にあり)
  6. この戦略は愚直なトライ&エラーの末に結果的に生まれたもので、ロジカルに事前に設計されたものではないこと(PDCAの大切さ)

さて、次回はリーダーシップの観点から、「館長 村上龍男一代記」をお送りします。お楽しみに!

 

 


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