メールマガジンご購読者の皆様
いつもメールマガジンをお読みいただきありがとうございます。
社会起業大学 学長の林 浩喜（はやし ひろき）です。
このROCKY通信では、僕が社会起業家の育成・支援に携わっている中での経験や僕自身の人生での学びや考えをシェアさせていただいています。
皆様の起業のお役に立てられましたら幸いです。
先週、とても心に残るパネルセッションに出掛けてきた。代官山のヒルサイドテラスで行われた「宇沢弘文を読む」と題されたセミナーだ。以前ROCKY通信でも書き、また今月２８日の社起大特別セミナーにご登壇いただく宇沢弘文さんのご長女の占部まりさんが主催されたもの。
ゲストは渋澤健氏、朝倉陽保（はるやす）氏。お二人は渋沢栄一翁の玄孫、朝倉寅治郎氏の孫という血筋であり最前線金融会社の経営者である。今回のテーマは社会的共通資本における制度資本の一部である金融文脈でのセッションだった。
渋沢栄一氏については説明の必要もなかろう。朝倉氏については若干の説明を。簡単に言えば明治から大正期にかけての豪商で渋谷区から目黒区にかけての大地主だった名家。宇沢氏は行動する経済学者、SDGsの源流ともいえる社会的共通資本という概念を生み出され、資本主義と社会主義のアウフへーベンを模索した昭和の知性の頂点と言っても過言ではない人物。
今回はゲストである渋澤健氏と朝倉陽保氏を中心にセミナーは展開した。まずは代官山ヒルサイドテラスのオーナーでもある朝倉氏から口火を切られた。実は朝倉氏は僕が30年前に起業したBAGEL＆BAGELがお世話になっていたベンチャーキャピタルに在籍されていたことがあり、面識のあった方だった。そして20代の頃から時々使っていたヒルサイドテラスのオーナーだったと知りビックリした。
1980年代後半の週末、バブルで湧き返る都心の喧騒から逃れるようにして通った。そこには上質な文化空間があったからだ。代官山には昭和初期に建造された同潤会アパートが存在したが、そのリメーク（と言っては失礼だが）的な存在だ。住宅と商業のコンプレックスで、旧山手通りに佇む文化、教養の香りがする独特な空間を演出していた。川で例えれば本流の流心の脇にゆったりとたゆたえた淵のような存在。当時の代官山を象徴する施設だった。
しかし今回、朝倉家にも試練の節目があったことを朝倉氏が語ってくれた。持てるものにも持たざる者にはわからない苦労があるのだ。虎治郎氏は今や重要文化財となっている大正の名建築浅倉邸をはじめ、多くの財産を残して逝かれた。ただ残したのは資産だけでなく巨額の相続税もあったそうだ。
米穀商として巨万の富を得た朝倉家。戦後米の商売が自由化され利権を失ったことから廃業し、新たな商売を模索せねばならなくなった。土地を切り売りして凌ぎつつ残された旧山手通り沿いの土地を再開発してヒルサイドテラスを作る構想が1960年代に持ち上がる。不動産業への転換だ。日本を代表する建築家、槇文彦氏の設計である。
低金利の今とは違い10％を超える金利で借り入れを起こしての建設プロジェクトだったという。建築マニアなのでわかるのだが、住宅を背後に控える周辺にも配慮した品格ある開発コンセプトは、その後の複合商業施設の開発に大いなる影響を与えている。
それ以外にも朝倉氏の発言で記憶に残ったのは、自社のみが主張をするのではなく周囲の人々にも気を配る仕事をすること。そうすれば結局は巡り巡って自社にもメリットが還元されると。それが商人の道と思っているとも。近江商人の唱えた三方よしでもあり、近年フランスの哲学者ジャック・アタリ氏の言うところの利他主義でもある。
そしてもう一つ大事なキーワードは時間軸だと。長い時間軸を設定できればより多くの人々を幸せに導けると。そういう朝倉家の価値観としての自分と、ファンド代表としての価値観の自分との葛藤があるとも言われた。さらりとおっしゃったが、この一言は響いた。
—
★ 学長特別対談 アーカイブ動画（期間限定）
資本主義を超えた新しい社会のために、宇沢弘文が未来に伝えたかったこと
-SDGsの源流、社会的共通資本-
ゲスト：宇沢国際学館 代表取締役 占部まりさん
https://360-vr.sakura.ne.jp/sec/20210728_sptalk
—
