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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
このROCKY通信では、僕が社会起業家の育成・支援に携わっている中での経験や僕自身の人生での学びや考えをシェアさせていただいています。
皆様の起業のお役に立てられましたら幸いです。
SDGsがここ数年来大きな潮流、新たな価値観としてあらゆるメディアを賑わしている。しかしその半世紀前から宇沢さんはSDGs的なるもの、人に関する福祉的課題、地球に関する環境課題について、つまり戦後資本主義の残滓としての社会課題にずっと警笛を鳴らしておられた。下記のように、その著作群のほんの一部をあげてみただけでも経済学から社会課題へのアプローチの足跡が見て取れる。
そして経済学者という枠に収まることなく、思想家そして社会活動家としての側面もあり、近代日本では極めて稀有な「行動する経済学者」という印象だ。社会起業家やソーシャルビジネスについてのご発言は無かったようだが、どのようにお考えだったのかとても興味がある。
・『自動車の社会的費用』(岩波書店〈岩波新書〉, 1974年)
・『「豊かな社会」の貧しさ』(岩波書店, 1989年)
・『地球温暖化を考える』(岩波書店〈岩波新書〉, 1995年)
・『社会的共通資本』(岩波書店〈岩波新書〉, 2000年)
・『経済学と人間の心』(東洋経済新報社, 2003年)
・『格差社会を越えて』(東京大学出版会, 2012年)
・『経済学は人びとを幸福にできるか』(東洋経済新報社, 2013年)
・『社会的共通資本としての森』(東京大学出版会, 2015年)
・『人間の経済』(新潮社〈新潮新書〉、2017年)
Wikipediaより
宇沢さんが遺された経済思想の中核概念に「社会的共通資本」というものがある。それは自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本の3つから構成されていて、その中に奇しくもSDGsの17項目の殆どが網羅されている。まるで宇沢さんが起草したかのように思えるくらいだ。詳細は一般向けに平易に書かれている「人間の経済」をご参照いただきたい。
おっしゃっておられるのは、資本主義の行き着いた先はあらゆるものを金額換算してしまう、あるいは換金してしまおうという価値観だが、それが近代経済学の犯した過ちであり、多くの社会問題の根源であるということ。
人間の心や魂といった最も大切なもの、自然や環境といった継承してゆくべきもの、医療や教育といった制度資本までもが金額換算対象となり、全ては利益の最大化というゴールにベクトルを向かわせた経済学に鉄槌の批判を加えられている。「人間の痛みや悲しみをこれまでの経済学は無視してきた」と。
そして近代資本主義経済学でもマルクス経済学でも考慮されなかった「人間の心を大事にする経済学」の確立を主張されつつ御帰天された。御歳86歳。
宇沢さんとは1度しかお話したことがないのに、2度にわたり書かせて頂き恐縮です。そして今回分かったのですが、以前書いた僕の恩師、村上敦先生とは偶然にも1960年代前半のシカゴ大学経済学部でニアミス(もしくは同時滞在)されていたことがわかり、不思議なご縁を感じました。
宇沢さんは村上先生の5つ上で正教授、村上先生は確か客員教授だったかと思います。経済学における専門分野は異なりますが、お2人とも自分の才能をとことん生かされ、半世紀以上も前に経済学という切り口で社会課題の解決に挑んだ筋金入りの男達でした。本物の学問とは最終的には実践的であり、次世代の人類、地球のより良き羅針盤となるものだとあらためて学ばせて頂いた次第です。
さあ今日も拳を上げて前進だ!