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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
このROCKY通信では、皆さんが、人生やビジネスのヒントとなるようなお話をさせていただければと思います。
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2025年東日本新人王決勝戦
久々に新人王決勝を観戦した。最初に見たのが1982年だったから、もう44年も前のことだ。高3だったかな、、、受験する大学の下見を兼ねての上京の際だったと思う。神田川にかかる橋の向こうに後楽園ホールを目にした時は胸が高鳴った。新人王戦、それも東日本の決勝は世界チャンピオンへの登竜門であり、通人に言わせると世界戦よりも面白いと言われてきた。それは競馬ファンの感覚に近いものかもしれない。僕も新人王決勝戦は何度も観戦して来たが、未来の世界チャンピオンを目利きする楽しさがある。リングサイドにはボクシング好きの芸能人の顔も見られ、普段のホールとは違った賑わいがある。
今回の目当ては10年来お世話になっている渡嘉敷ジムから勝ち残った2名の観戦だ。ジムで出会えばよく話をする友人のような若者達だ。1人は石井竜虎選手、ウェルター級の20歳、もう1人は台湾からやって来たリュー・チャーウェイ選手、ライト級の35歳。タイプは異なるが共にKO率100%の強打者だ。そして双方の対戦相手もまたKO率100%!

激しく打ち合うチャーウェイ選手(右)
先にリングインしたのはチャーウェイ選手。台湾人の血なのか、その楽天性には感心する。常にポジティブだ。決勝の対戦相手となる出畑選手は18歳の高校生ながら、ハードパンチが売りで、渡嘉敷ジムのホープの1人だったS君をトーナメント1回戦で初回KOに降した。つまり今回は弔い合戦というわけだ。最初に仕掛けたのはチャーウェイ選手。距離を詰めてショートの連打を決めた。出畑君は顔を赤らめながらも冷静に対応する。そして初回後半には逆にロープ際に追い込んでチャーウェイ選手を連打してダウンを奪う。それほどのダメージは感じられない。2、3回は一進一退の攻防。試合の流れは出畑選手が握っていたが、チャーウェイ選手も怯むことなく立ち向かい、勇気の連打を見舞う。会場は興奮のるつぼに。しかし4回後半、チャーウェイ選手にはダメージが溜まりつつあった。そこにハードパンチを乱打され、レフェリーストップとなった。負けはしたが、感動の試合だった。年下の強打者に怯むことなく最後まで立ち向かったチャーウェイ選手の台湾魂!素晴らしい試合だった。全勝対決を制した出畑選手は、今回のMVPに選出された。まだ若く更なる成長が期待される。ぜひ世界チャンプを目指して頑張って欲しい。

勝ち名乗りを上げられる竜虎選手
次にウェルター級でリングに上がったのが石井竜虎選手。天性のハードパンチャーで、どちらかというと寡黙な好青年なのだが、練習には常に100%で臨み、いくつものサンドバッグを破壊してきた。彼のバッグ打ちは側で見ていても、空恐ろしいくらいだ。出稽古スパーでも国内ランカークラスをバタバタと倒す最強の4回戦ボクサーだ。しかし彼は22の若さで挫折を知っている。今回はそれがプラスに出ると思っていた。実力的には頭一つ抜けているので、前回のような油断さえしなければ絶対に勝てる。前回のというのは、龍虎選手が19歳だった3年前の話。東日本新人王戦の決勝で、不覚の逆転KO負けを喫したのだ。初回に得意の左フックで豪快なダウンを奪うも、一瞬の隙を突かれ3Rに逆転KOを喰らってしまったのだ。そして一時期ジムから消えてしまったが、2年間のブランクを乗り切り、ついにジムに戻って来た。ボクシングに専念する覚悟を固めてのリターンだ。身体も一回り大きくなり、野性味はさらに増した。名は体を表すとはよく言ったもので、本当にドラゴン(竜)&タイガー(虎)だ。普段はシャイで大人しいのだが、試合の時の迫力は強烈で、リングで向き合う相手選手には気の毒なほどだ。対戦相手のダルシャン選手は、ネパール出身で身長、リーチとも竜虎選手より7センチも勝る。ともにKO率100%。しかし挫折を克服した竜虎選手に怖いものは無い。初回、互いにしばらく様子を見た後、竜虎選手が前に出てロープに詰める。得意の左右フックを強打すると、それがもろにヒットしダルシャン選手はふらつく。するとダルシャン選手のコーナーからタオルの投入。いきなりのジ・エンドだ。納得のゆかない本人は、セコンドに不満の意をアピールするが、先方の会長は頭を振ってなだめた。ちょっと早すぎる判断だとも思ったが、あのまま続けていたら彼は担架送りになっていた気がする。それほどまでに竜虎選手の破壊力は凄まじい。2年の遠回りは決して無駄ではなかった。この新人王獲得を足がかりに日本王座を奪取し、その勢いで一気に世界の頂点に駆け上って欲しい。

リングを降りる竜虎選手
さて締めの総論だが、新人王戦とはいえ総合的な技術は格段に進歩している。かつて見られたストリートファイト的な力任せのぶん回しのパンチを振るう選手は1人もいない。スピード、パンチ、ディフェンス、フットワーク、駆け引き等々みな技術的にも一定レベル以上である。そして冷静だ。殆どの選手がアマチュアで経験をしているのがその理由だ(竜虎選手はアマ歴なし)。そのぶんヤンチャな打撃戦の盛り上がりが無くなってしまったのは寂しくもあるが、、、
井上尚弥という世界的スーパースターの登場で、日本でもボクサー志望の少年が急増しているそうだ。それには人気世界チャンプが得られる収入が2桁変わった事情もあろう。僕的には勝つボクシングを前提とした昨今の試合以上に、選手の個性溢れるファイトが見たい。試合ぶりにその選手の生き様が表れるような。70年代から80年代前半の世界戦が15回戦だった時代に個性的な選手が鎬を削り合ったような、、、でももはやこれはノスタルジーだ。ボクシングは常に進化を続け、過去は風化してゆくのだ。

未来の世界チャンプ竜虎選手と