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社会起業大学 学長の林 浩喜（はやし ひろき）です。
このROCKY通信では、皆さんが、人生やビジネスのヒントとなるようなお話をさせていただければと思います。
皆さんのお役に立てましたら幸いです。
ピンク・フロイド「原子心母」のシートを手にする現在のポー・パウエル
久々に映画館に足を運んだ。疲労していたので少々辛かったが、ずっと見たかった映画なので猛暑の中を出向いた。タイトルは“ヒプノシス“で、催眠術という意味らしい。2022年制作のイギリスのドキュメンタリー映画だ。70年代前半、僕の小中時代にピークを迎えていたブリティッシュロックのレコードジャケットを、至高の域まで高めた2人のアーティストの半生を振り返るドキュメンタリーだ。
昔からデザインに興味がありまた好きだったので、前職の“BAGEL＆BAGEL”時代には店舗デザインやポスター、チラシからHPの類まで自ら力を入れて作ってきた。実はデザインのインスピレーションが欲しい時、１人中古レコード店やCDショップを回遊した。海外出張の際も、地元のそれら店舗を巡るのはMUSTであり最大の楽しみでもあった。理由はカバージャケットが大いに刺激を与えてくれるからだ。古くは今回の映画と同時代の70年代のものから2000年代初期の当時最前線のハウスやテクノ系のものまで参考にした。店内で音楽を楽しみつつ1時間くらいじっくりそれらを眺めてまわるのだが、そこには「自由」があり、束の間ながらトリップさせてもらえる貴重な時間だった。
ポー・パウエルとストーム・トーガソン
映画の主人公の2人ストーム・トーガソンとポー・パウエルのことは知らなかった。そしてヒプノシスのことも。でも予告ポスターを新宿の繁華街で尻目にした時にピンと来るものがあり、写メを撮っておいた。そして今回の初視聴だ。ロックにあまり興味が無い人も多いと思うので深入りはしないが、ピンク・フロイド、レッド・ツェッペリン、ポール・マッカートニー、ピーター・ガブリエル、10CCといった錚々たる70’sバンドのレコードジャケットを手掛けたデザイン集団、その名がヒプノシスだ。
ピンク・フロイド「狂気」
あれは中２の冬だったか、、、祖母からもらった小遣いを握りしめて、レコード店に行った。店内の棚にひときわ目を引くレコードが。ピンク・フロイドの「狂気」とツェッペリンの「聖なる館」だった。それは他のアーティストのレコードとは明らかに違う独自のオーラを放出しており、僕に向かって何らかのメッセージを発しているのを感じ、手に取って眺めた。そのメッセージが何なのかは分からなかったが、強烈なインパクトがあった。当時ピンク・フロイドは僕の好みのジャンルのロックではなかったが、試聴させてもらった。複雑で音楽の方はよく分からなかった。ジャケットに触発され、「狂気」を購入した。まさにジャケ買い！家に帰り、何度かターンテーブルに乗せたが、理解不能な最先端のプログレはまだ僕には早かった。というか、、、今でもあまり好きではない。僕は魂にガツーンと来るシンプル系のロックが好きなので、複雑でインテリジェンスを必要とするプログレとは相性が悪い。結局、高1の時にクラスメートに譲渡した。笑
レコードジャケットはレコードの洋服みたいなものだ。初対面の人間関係もまずは視覚から入るように、テレビやラジオなどで先に音を知っている場合を除けば、まずはジャケットの視覚から入る。ヒプノシスの2人は、発想がブッとんでいる。奇抜、幻想、耽美、知性、自由、シュール、ハイ＆ディズィー、、、ドラッグの影響もあったのだろうが、とても正気と思えぬビジョン。アートロックのジャケットに牛を起用したり、砂漠にトマトのような赤い球を一列に並べたり、巨大な工場の天空に豚のバルーンを飛ばしたり、わら半紙でジャケットを包み隠してみたり、、、これらのアイデアコンセプトをバンドメンバー達と徹底的に話し合う。最終的に意見が合致した時のデザインは楽曲との相乗効果も働き、予想以上のインパクトを生む。「音楽×ジャケットアート」で伝説のアルバムにまで昇華されるのだ。そして爆発的に売れる。
デザイナーとして大成功をおさめたヒプノシスの2人だが、80年代に入りロックの主流はニューウェーブへと移行し、軽くてポップな路線が隆盛した。そして本物志向のヒプノシスは時代に取り残される形となりフェードしていった。しかしホンモノはホンモノだ。必ず再評価の時が来る。それがきっと今なのだろう。レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジが70年代を振り返り、映画の中で大笑いしながら語っていた。「中身よりも（レコードの楽曲よりも）、ジャケットの方がずっと良かった」と。
レッド・ツェッペリン「聖なる館」
（参考）公式サイト『ヒプノシス レコードジャケットの美学』予告編
https://www.hipgnosismovie.com/