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【 ROCKY通信 】第277回 ある国税マンの悲哀

 

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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
 

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【 ROCKY通信 】第277回   ある国税マンの悲哀

 

               

 

「マルサの女」

 

国税マンとして30年働いて来たS氏と話す機会があった。通称“マルサ”とよばれる査察員で、バブルの1987年に故伊丹十三監督の映画「マルサの女」で有名になった職業である。簡単に言うと、企業の脱税を暴き追徴課税を獲得することを仕事とする人々。公務員ではあるが仕事は夜討ち朝駆けも辞さぬもので、よほど強い使命感が無いと務まらない内容と思われる。僕の前職“BAGEL&BAGEL”では5年に1度くらいの頻度で査察が入ったよう記憶する。急成長している会社は狙われやすいと取引銀行の方からよく聞いた。ちなみにサラリーマン時代に働いていた総合商社では、国税のOBを顧問として迎え入れていざという時に備えていたくらいだ。

 

調査内容は指定された経理関連の帳簿を全て提出し、査察官は会社の会議室に約1週間ほど缶詰めで金の流れに関する全てを調べ上げる。経理部員もその期間は日常業務返上で、査察官の対応に追われる。顧問税理士も同様だ。査察官は店舗にも顧客を装って訪問し、当方が報告している売上と実態にズレがないか、配置している人員の数から人件費も実体とズレが無いか等まで確認する。自慢ではないが、調査後の最終経営者面談で毎回マルサの査察官には褒められた。この規模でここまできちんと襟を正している会社はそうそうない、と。経理部のスタッフも面前で褒められて、大いに気をよくしたものだ。俗に「お土産」と言われる、ちょっとした経費処理の仕方の問題で2度ほど超微額の課税をされたぐらいだった。

 

さて本論だ。S氏はあきらかに脱税していると思われるブラック企業に徹底調査をしてきたらしい。積年のご苦労のせいだろう、心身共にかなりお疲れの様子だった。自ら選んだ職業だから仕方ないとはいえ、気の毒に感じた。ビジネスでいえば顧客に当たる対象が脱税の臭いのする企業であり、その闇を暴くことが仕事だ。対象となる企業は100%敵対的な関係になる構図だ。企業側からすれば確信犯的に脱税している会社であれ、そうでない会社であれ、虎の子の現金を強奪?してゆく悪魔ということになる。国税マンからすれば、社会正義のミッションを背負ってそれら社会悪と闘っているという認識なのだろうが、どこまでも敵対的な関係だ。

 

S氏は寂しそうにぽつりと言った。「30年間、仕事で誰からもありがとうと言われたことが無いんです」と。キリスト教の聖書でも徴税人と言われる職業の人々は、ハッキリ悪役として語られているくらいだから、もう2000年以上にわたる辛い職柄なのだ。心血注いで自分が正しいと思うことを30年以上も果たしてきたのに、顧客筋?からたった一言「ありがとう」をもらえない、、、上司からよくやったと褒められてもそれは束の間の喜びで、心の底から充足される喜びではないだろう。

 

顧客からの「ありがとう」というシンプルな感謝の一言は、自己肯定感につながる心のご褒美であり明日へのエネルギー源なのだと、あらためて認識させてもらった次第だ。


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