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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
このROCKY通信では、皆さんが、人生やビジネスのヒントとなるようなお話をさせていただければと思います。
皆さんのお役に立てましたら幸いです。
THE SAPEURの表紙となった写真
青山のアート系書店で一際目を引く写真集があった。もう10年近く前だろうか。『THE SAPEUR(ザ・サプール)』(茶野邦雄 著 )という本で、カラフルで明るく愉快なオヤジさん達の写真が表紙だったからだ。その頃の僕は、BAGEL事業を譲渡し次の事業に向かう中休みのような状態だったこともあり、何か刺激を求めていたのかもしれない。手に取ってみると、ファッションを通じた色彩の爆発!エレガンスの高揚!自由の発露!アフリカはコンゴの黒人たちが思い思いの色彩のスーツやジャケットに身を包み、楽しそうにポーズを決めたり、ステップを踏みながら歩いているではないか。検索すると「SAPEUR(通称SAP)」とはお洒落で優雅な紳士協会であり、コンゴの革命家であり社会活動家であったアンドレ・マツワを始祖とするとのこと。強く感じるものがあったので、何はともあれすぐに購入した。
颯爽と歩くサップの面々
自宅に戻り目を通すと、なんだか心が軽くなってこっちまで踊り出したくなる気分にさせられた。起業後の20年にわたる自身の経営人生で、忘れかけていた、失っていた何か大事なモノを思い出させてくれたような気分だった。それは心の自由であり、視覚を主とする五感であり、生へのポジティブさといったものだ。書斎の写真集コーナーに置き、時々この写真集を眺めてきた。そしていつも元気をもらった。フランスを旧宗主国とするコンゴ共和国は、ファッションの中心であるパリモードの影響を受けて来た。そこに自らのセンス、美意識、伝統などを取り込んで生まれたのが「SAPEUR」というファッションスタイルだという。つまり「パリスタイル×コンゴスタイル」で生まれた独自のファッション様式だ。奇抜で思いもつかないカラーコーディネートが大きな特徴。まるでマチスの画を見ているかのようだ。
日曜日のミサに参加するサップ
ところが、、、である。このサプールはただのファッション誇示集団ではないのだ。そのベースにはキリスト教(カトリック)的世界観に根付いた思想がある。そして立居振舞のコードもあり、芸術の域にまで昇華した独自の価値観を持つ集団なのだ。繰り返された国内紛争(現在コンゴは2国に分割されている)を経験しているので、絶対平和が大前提。非暴力、被差別、非部族主義を掲げている。そして行動にも品格が求められているので、礼儀正しく他者への尊敬を忘れない。彼らは首都ブラザビルでは尊敬の対象であり若者や子供の憧れの的にもなっているそうだ。エレガントな紳士でありつつ地域のリーダー的な役割を担っているということだろう。
簡素なマイホームは衣類でいっぱい
彼らが買うのはパリから持ち込まれる一流ブランド品ばかり。ディオール、サンローラン、ヴィトンにエルメス。そしてケンゾーも!身にまとう衣服だけでなく帽子、靴、ベルト、靴下からサングラス、アクセサリー、傘・ステッキ、葉巻に至るまで一級品を求める。普段は地道な仕事をし、簡素な家で慎ましく暮らしつつ貯金して月給の10倍以上もする製品を購入する。(コンゴの平均月収は3万円) そしてそれを身に纏い週末は教会のミサに参加し、ナイトイベントに繰り出すそうだ。まるで映画「サタデーナイトフィーバー」のトラボルタのようだ。笑
「サップとは修練であり、生活様式であり、人生の選択だ」という。我々と比べた場合、経済的には決して裕福ではないだろうが、きっと幸福度は遥かに高いであろう。アジアのライズの次はアフリカの時代が来ると言われて久しいが、現在の先進国と同じ自己本位の資本主義の後を追わないでほしい。そしてぜひ新しい価値観、生き方のオルタナティヴを示してほしい。人類の起源でもあるアフリカの人々にしか果たせない役割がきっとあると思う。
今日も仲間たちと さて、今日は何をしようかな?
SAPEURとは(Wikipedia)
『THE SAPEUR』(茶野邦雄 著 )