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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
このROCKY通信では、皆さんが、人生やビジネスのヒントとなるようなお話をさせていただければと思います。
皆さんのお役に立てましたら幸いです。
開校144年 渋谷区立幡代小学校 シンデレラ門
週末、たまたま幡代小学校の前を通った。寒くはあったが、快晴下の「シンデレラ門」は美しく、僕の娘たちが通った同校は昔のままだった。もう10年以上も前の話だが、PTA会長なるものを経験した。今日はその思い出話をしたい。140年の伝統を誇り、区内随一の生徒数を誇る同校は、とにかく子供達が元気という評判だった。PTA活動は初デビューでいきなりの会長職だった。まったく未知の世界だったが、子供大好きだという理由だけで推薦を受けることにした。
思い出のネクタイ
最初の仕事は1年生の入学式での挨拶だった。これにはかなり気合が入った。下の娘が新1年生だったからだ。当時カジュアルウエアで仕事していたのだけど、ネクタイぐらい締めなきゃというので娘たちと青山のアイビー系洋品店へ買い出しに。公式の祝の場に相応しい?色柄のものを娘たちに選んでもらった。ああでもないこうでもないと小一時間近くかかったが、今となっては良き思い出だ。さて肝心のスピーチの方だが、思いを込めて話したこともあり会場からは大きな拍手を頂いた。校長先生から「こんなの見たことないわよ」と言われ、とても嬉しかった。
実務の方は当初聞いていた話とはずいぶん異なり、週に何度も活動に時間を取られた。 諸々の学内ミーティング、渋谷区のPTA会長ミーティング、行政ミーティングをはじめ校長面談や地域の重鎮の方々との面談、諸々の公開行事への出席。多くの会合は平日の日中に行われ、相応の準備が必要なケースもあったから、思いのほか大変だった。本業より優先順位が上がってしまった。笑
PTAは複数の委員会で構成され、全学年の各クラスに委員が配置され、さながら企業組織のようであった。その年は僕と共に副会長の2人がパパで、他の構成員である数十名は役員も含め全員ママだったと思う。パパ三役が仕切るPTAへの期待が高かったと後に知った。変革を望まれていたのかも知れない。ただ、やってみて驚いたのは定型業務におけるママたちの驚くべき実務能力だった。その手際の良さ、スピード感。これには本当に感心してしまった。
4月から具体的な活動開始となったが、「ママの園」を仕切るのは一筋縄ではいかなかった。そこには企業さながらの派閥が存在し、調整業務が必要であった。走り出しの春頃は、古株ママからは、アゲンストな態度を取られ、会議の席で攻撃されたりもしたが堪えに堪えた。笑 正直面倒になってきていたが、すべては子供たちの為と思い踏ん張った。時間と共にお手並み拝見的な空気は次第に薄れ、お決まりの年間スケジュールはさながらジェットコースターのように通り過ぎて行った。
僕が腐心したのは、PTA業務を今まで通りに変化を加えず淡々と踏襲する派と、無駄な業務は無くして負担を軽くして欲しい派の相克の解決だった。これには本当に参った。働くママが大半だったことも有り、僕は後者を支持したかったのだが、古株のママたちからは強い抵抗があり実現は困難であった。自分の会社なら最高責任者として独断できるのだが、公益的なPTA活動ではなかなかそうはゆかなかった。大いに学ばせて頂いた次第だ。きっと公務である政治家の方々はステークホルダーとの間でこういう板挟みの構図でご苦労されているのではと推察した次第だ。
基本は役員と構成メンバーを中心に決められた年間スケジュールをひたすらこなすことで良かったのだが、3か月も経った頃から起業家の虫が疼きはじた。副会長のパパ2人に対し、せっかくなのだから子供たちの為に何か面白いことをやろうよ、“SOMETHING NEW”をやろうよ!と提唱した。あれこれ選択肢を共に揉んだ結果、落語を子供たちに見せることにした。校長も乗り気になった。
立川晴の輔さん
お呼びしたのは昨年「笑点」のレギュラーになった立川晴の輔さん。当時まだ真打になる前だったよう記憶する。副会長のO氏が落語協会に連絡をとり、事前に何度かの打ち合わせをした。晴の輔さんは奇しくも“BAGEL&BAGEL”の愛好者だったこともあり、すぐに打ち解けた。氏の提案でイベントは1・2年、3・4年、5・6年と3部編成にした。同じ小学生でも年代によって笑いのツボが全く異なるからという理由からであった。落語の世界にもマーケティングがあるのだと感心した。マーケットインの発想があり、またその場の空気で話術を変えることができ、かつ腰の低い晴の輔さんはきっと出世すると直感した。子供たちの多くが落語初体験だったが、「体育館寄席」ではそこらじゅうでドッカンドッカン快活な笑いが起きた。その子供たちの無邪気な笑顔をみて、PTA活動に関わって本当に良かったと思った。最近、晴の輔さんがCMにも出ておられるのを拝見し、ご出世を喜ぶとともに貴重な経験をさせていただいた幡代小学校への感謝の気持ちが湧いている。
最後に自問自答を。「PTA活動は世に必要であるか?」
答えは「必要だ!」、だ。
アメリカが発祥のこの社会活動は、これは社会の根幹でもある子供の教育に一般市民の保護者やその他ステークホルダーが参加し、本音を語り合える数少ない民主主義の実践の場だ。会長職を通じて大したことは出来なかったが、これはボランティアではなく大事な社会参加義務の一部だと感じた次第である。