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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
このROCKY通信では、皆さんが、人生やビジネスのヒントとなるようなお話をさせていただければと思います。
皆さんのお役に立てましたら幸いです。
今年のマイ映画大賞は、「ぼくたちの哲学教室」で決まり!
もともとドキュメンタリー映画は好きなカテゴリーなのだが、この映画は実に良かった。
リアリティの中に共感、感動、学びなど多くの点で満足度が傑出していたからだ。久々に映画館で見たこともその感情を増幅させた。
舞台は現代のアイルランドの首都ベルファスト。ずっと行きたかった憧れの国だ。歴史的には多くの芸術家、文人、ミュージシャンを輩出した国だが、1920年代から続く宗教対立を根源とする戦争やテロのことも脳裏をよぎる。北アイルランド紛争だ。それに起因し伝統的に若者の自殺が多いことも国家課題だ。
そんなアイルランドにある4歳から11歳の男子が通う小学校における哲学の授業がこの映画の本題だ。ホーリークロス小学校のケヴィン校長は哲学を初等教育に持ち込んだのだ。自らがアイルランド紛争の体験者であり、その悲惨な暴力のトラウマと未だに闘っている。多分僕より少し年上の方と思う。哲学を教えるというと気難しい理屈っぽいオヤジを想像するが、ロック大好き、柔道黒帯、酒も好きそう。親しみやすく茶目っ気のある先生だ。
哲学の授業はユニークで、子供達に問題を投げかけはするが答えは決して出さない。自分たちで考えさせるのだ。ただその「考え方」をちょっとしたゲームをしながら教えるのがミソ。クラス内のいじめの問題や、絶えない喧嘩の問題も直接否定するのでなく、傾聴し疑問を投げかけ、両サイドに対話を促す。
子供達は対話の中で理性を働かせ、自分の中にある道徳律のようなものに気づき始める。そしてそれらの問題が徐々に解決に向かう様子が映画で描かれていた。理性と道徳律。なんだか難解なカントみたいだが、それを丁寧にファシリテートするケヴィン先生。
実は社起大も同じような授業フォーマットなので非常に共感できる。講師は一方的に知識を詰め込むのでなく、受講生同士の対話を促しそこからの学びを最大化するというものだ。
話が逸れたが、この哲学クラスのような思考スタイルこそが、多様性や寛容性を促し、この地域から紛争をなくすための起点になるだと思う。時間はかかるが、この哲学的な思考は批判的な精神も内包しており、どんな考えも一度は疑い反証しつつ真理を探究するプロセスだ。それを子供のうちから自然に身につけることが出来るなんて羨ましい限りだ。
ケヴィン先生自体も哲学愛好家で、大学時代から哲学を学んだようだが、僕が評価するのは「哲学学」つまり歴史上の高名な哲学者たちの著作や言説を解説するのではなく、「実践哲学」をファシリテートしながら子供達に体得させるという教育手法だ。「生きた哲学」を少年期にマスターするのだ。
未だ世界で起き続ける戦争や紛争。哲学的アプローチは倫理とセットで純粋な子供時代に学んでおかないと、大人になってからでは遅いのかも知れない。成長とともに思い込みや偏見、囚われ、決めつけなどに無意識のうちに感染され束縛されてゆくからだ。
僕が哲学を好きになったのは高校時代の倫社の松浦先生のおかげだが、それは「哲学学」だった。大いに知的刺激を受けた。授業中に興奮を覚えた初めての経験だった。しかし自ら考えることの楽しさを知ったのは30も半ばになってからだ。小林秀雄の本から学んだものだ。ちょっと遅かったな。笑
ケヴィンみたいな先生が小学校に増えてきたら、世界は変わるかも知れない。僕も子供時代にケヴィン先生の授業を受けてみたかった。