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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
このROCKY通信では、皆さんが、人生やビジネスのヒントとなるようなお話をさせていただければと思います。
皆さんのお役に立てましたら幸いです。
今日は久々にボクシングのネタ。ここ10年、フィリピンがアジア最強のボクシング国となっている。かつては噛ませ犬だったフィリピンは、6階級制覇の名王者マニー・パッキャオの出現で一気に弾みがつきその地位を獲得した。井上尚弥を擁する日本は2番手だ。そのフィリピンに、常に物議を醸すアジアNo.1の“スーパーヒール”がいる。ハードパンチャーだし強いのは間違い無いのだが、とにかくワルなのだ。その名を“ジョンリル・カシメロ”という。
今調べてみるともう34歳なのだが、小ぶりながらヤカラな風体で、常に対戦相手には悪態をつき挑発しまくる。ここ数年その標的となっているのが尚弥だ。年下の尚弥の方が大人で、うまくいなしている感じだが、たまにキレそうになっているのがわかる。だから日本のボクシングファンは、尚弥がいつかカシメロを完膚無きまでブチのめすのを心待ちにしている。僕もその一人だった。だったのだ。
先日、尚弥への挑戦をアピールする目的で、日本のリングにカシメロは初登場。小國以載という元世界チャンピオンと対戦した。ここでは試合内容についてはあえて触れない。語りたいのは試合前に流されたカシメロの離島での生活を報道するちょっとしたドキュメンタリーだった。柄にもなく感動してしまい、久々に胸を打たれた。
なぜ彼が毎度試合のたびにファンに眉をひそめられるような悪童ぶりを発揮するのか?またなぜ3度も世界タイトルを獲ったのに、いまだにビッグファイトを追うのか?がよく理解できたからだ。彼はまさしくフィリピンの矢吹丈だったのだ。
あのリング内外での粗暴な態度とは異なり、そこには穏やかなカシメロがいた。謙遜で誠実で愛に溢れる日常行動。彼の住む村は、貧しい集落だ。人々は陽気だが、食料も乏しく一歩でも違えば麻薬に手を染める危険も孕んでいる。そんな村にカシメロは自費でボクシングジムを開いた。全ては村のチビ連(子供達)のためだ。「俺みたいな人間でも、本気で努力すれば世界チャンプになれるんだ!」というメッセージを感じた。
近隣のチビ連はジムが遊び場だ。スパーリングを通じて勇気とスキルを身につける。カシメロは「この子たちの為にも、俺はこの地を離れる訳にはいかない」と言う。チビ連たちが、このジムで練習する意味があると言う。
そして、夕方からは主食とおかずをパッケージにして一軒一軒近隣を巡る。挨拶をしてその夜の食料を配るのだ。全ての費用は彼持ちだ。カシメロは試合前後とは別人のような穏やかさで語る。「俺は土地も家も車も手に入れた。もう必要なものはない。得たものを与えるのが今の俺のモチベーションだ」「この村は皆で互いに支え合うんだ」「俺はこのチビ連たちに、希望を与えたいんだ」
きっと彼はフィリピンの9割近いカトリック信者の一人なのだと思う。彼が尚弥に悪態を突くのは、村民の為に金が必要であること。その為に“ジョンリル・カシメロ”というスーパーヒールを演じていたのだ。彼は、ボクシングというスポーツを媒介とした社会起業家だったのだ。今回の小國との拙戦で井上尚弥との試合は遠のいたかもしれないが、村の人々やチビ連たちにとり、カシメロは永遠のヒーローだ。あしたのジョー、矢吹丈が山谷における永遠のヒーローであったように。
カシメロの貴重なプライベート映像