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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
このROCKY通信では、僕が社会起業家の育成・支援に携わっている中での経験や僕自身の人生での学びや考えをシェアさせていただいています。
皆様の起業のお役に立てられましたら幸いです。
皆さん長門市をご存知だろうか?
山口県の北側、日本海に面し自然豊かだがあまり観光化されていない、人口減少が加速している典型的な日本の地方都市だ。
やまぐち社会起業塾のメンバーで、1泊2日正味19時間の長門にスタディツアーに出かけた。短い時間ながらも濃密な意義深い時間を過ごすことができた。僕の長門訪問は小学校4年の家族旅行の時以来だった。
最初に学びを頂いたのはクラス終了後に直行した俵山温泉で、旅館と食堂を運営する地域経営会社SD―WORLD代表の藤永義彦氏だ。俵山温泉は西日本で最高の湯質と評価される湯治の名所だが、行ってみると多くの旅館が閉鎖されていて活気は無かった。しかし個人的にはこの鄙びた感じは好きで、商業的な温泉ホテル街よりもずっといい。
泊まった宿は「ねる山」、食事は向かいの居酒屋食堂の「たべ山」。ともに藤永氏の経営である。地元の市役所員だった藤永氏は早期退職され自ら社会起業し立ち上げたプロジェクトだ。地域衰退という社会課題に取り組むことを主眼とし、徒手空拳自らオペレーションに参加しつつ経営されている。立ち上げていきなりコロナ禍に遭遇し、大変なご苦労をされたそうだがパワフルに現場を切り盛りされている。
起業に関するアドバイスはシンプルで「結局、乗り込んでやってみるしか無い!」というもの。組織形態は株式会社だが、出資者を地域住民にも広く募ったそうだ。ねる山旅館はクローズされていた旅館をそのまま使用したもので、素泊り専用。たべ山は地元食材を使用した料理が売り。中でも害獣と言われる鹿猪などを使ったジビエ料理が目玉。コンセプトの全てが地域の社会課題解決にリンクしている印象だった。料理、地酒、そしてシメの手打ち蕎麦。いずれも美味であった。
翌朝は6時半から参加者によるレクチャーの後、すぐに長門最大の観光名所の元乃隅神社に直行。正直写真で見るほどのインパクトは無かったが、2015年にCNNで日本の風景ベスト30に選ばれて以来、山口県を代表する観光名所になったそうだ。そして棚田で有名な油谷(ゆや)の東後畑(うしろばた)地区に移動。絶景ポイントにある廃校を利したNPOゆや棚田景観保存会の和田あいこ副理事長とチームメンバーによるレクチャーを受けた。
1950年代には2万5千枚もあった壮大なスケールの棚田が、今ではその多くが耕作放棄地となっている。その頃の油谷地区の航空図を見せてもらい驚いたが、半島全てが日本海に向かう棚田だった。まるで地図の等高線見ているかのようだ。今は竹藪や林のようになっているところも多く、とても同じエリアとは思えない。そこで彼女たちはこの棚田を復活させるべく、移住者、地域おこし協力隊員、ボランティアとともに開墾しつつハーブ畑として再生しようとしている。
収穫したハーブを使って既に商品化しているのはジン、ハーブドリンク、食用ハーブといったものや、アロマオイルなどである。歴史・自然景観の保存と移住・定住を視野に入れた交流・関係人口の活性化という社会課題に取り組んでいる。実際の日々のご苦労は大変なように感じられたが、海を望む絶景の棚田群をどうにかして次世代に渡したいという熱い思いはふつふつと伝わって来た。故安倍首相が2013年に訪問し「息を呑む美しさ」と絶賛されたというこの棚田、是非とも再生の成功事例にして欲しいと思った。
最後に訪問したのは、株式会社百姓庵という製塩をしている企業。非常におしゃれな工房は北欧の田舎小屋ようでインパクトがあった。想像していた塩田式ではなく、竹を使って海水を濾過し薪で炊き上げるというユニークな製法で、井上かみオーナーに案内して頂いた。立体化された施設での製塩プロセス自体も興味深かったが、商品化された塩をネットで国内のシェフやグルメの方々に直売するモデルで、ビジネスとしても成立している。ブランド化も出来ており、今後は卸ビジネスにも力を入れてゆくそうだ。
また井上氏はかつての百姓農家がそうであったように、油谷半島で100の仕事を作り出し自給自足をベースとする「百匠園」のコンセプトの実現に向かって頑張られている。既に実現したのが起点の製塩、そして野菜農園、養豚場、ハム工場、スペインバル、等。一緒に夢を追いかけてくれる人を日本中から集めたいと熱く語られた。理想郷づくりを目指しつつ、移住者を増やし地域を盛り上げようとされている。
今回、素晴らしい自然が残されているのに過度に観光化されていない長門が好きになった。エンタメ要素でいうと、僕の感動3ポイントは①トロトロの湯質の俵山温泉の元湯②油谷湾を右、日本海を左にターコイズブルーの海を一度に両方楽しめる油谷半島の絶景ポイント(名付けてTボーンステーキ半島!)③「たべ山」で食した地元食材の料理の数々(中でも黒枝豆は絶品だった)
もっと伝えたいことはあるのだが、キリがないのでこの辺で。
ps
俵山温泉に到着と同時に外湯の共同浴場に直行。その湯質は評判に違わぬもので、大満足した。泉質には相当うるさい自分ですが、トロリとした柔らかい湯は快感。入湯者は地元の農家の方ばかりで、浴槽内では地域活性化の話題で大いに議論した。市の人口減少と高齢化の加速については諦念に近い感情を吐露されていた。実際、それらにリンクする耕作放棄地の問題は深刻なようで、本気の移住者なら農地を無償で譲渡してもいいとすら言われていた。