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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
このROCKY通信では、皆さんが、人生やビジネスのヒントとなるようなお話をさせていただければと思います。
皆さんのお役に立てましたら幸いです。
ハリウッドランチマーケットという代官山にある老舗のアパレル店をご存知だろうか?ゲン垂水氏が創業し、今年で51年目を迎える老舗だ。ファンは3世代にわたるという。まるでビートルズだ。実際店内の客層が幅広いのには驚かされる。僕は同社の商品は卸先のセレクト系の店でちょくちょく購入していたが、初めて代官山本店に行ってみた。駅徒歩2分で、旧山手通り沿いの好立地。僕は20代前半から店の前は何十回も通っていたのだが、入ったのは今回初めてだった。
入ってまず気に入ったのは、店の「空気感」だ。ウェストコースト調の木の床や壁、そしてあたかも自宅のクローゼットにいるような感覚。音楽は60’s 70’sのロック中心の選曲。中心と書いたのは、なぜかエディットピアフのシャンソンもかかったりして意表を突くのだが、決して統一感は乱れない。むしろ新鮮だ。
そして店員のファッション。皆さんそれぞれ好みのファッションをされているのだが、その空気にマッチしている。スタッフは20代前半から何と70近い人まで揃っている。顧客の年齢層に合わせた世代別接客ということなのだろう。50代の僕には同世代の人が最初について、後にシニアの70近い人に引き継がれた。世代が近いと会話もしやすく、会話は互いの服の好みから音楽の話へと広がる。感性が絶妙で知識も豊富なので、音楽の話だけでも随分と弾んだ。
そしてその会話の流れの中で商品を組み合わせてリコメンしてくるのだが、会話の流れがあるので全く嫌味がない。この日は仕事用のチノパンを探しに来たのだが、イメージしていたものに近いものを購入できた。しかしここでのポイントは、商品価値以上の価値を体験出来たことだ。そしてまた来ることになるだろうと思った。
品揃えは大きく分けると、IVYの流れを組むベーシックなもの、カレッジ系のユーズドカジュアル、そして60’感覚の現代風アレンジ。フラワーチルドレンの匂いがする。あとは同社オリジナルのアクセサリー類だ。僕らから上の世代には何の問題もなくスッと入ってくるし、40代から下の世代には温故知新だ。アメカジの先生のようなポジションなのだろう。さらになぜかインバウンド、それも白人系の人が多いのもこの店の特徴だ。
これだけ客層にダイバーシティがあるカジュアルコンセプトの店を僕は知らない。ライフスタイルマーケティングとストーリーマーケティングを自然に実践しているので、きっと顧客は何度も通うことになる。商品だけでなく接客や気持ちの良い空間とセットで顧客満足は嫌が応にも上がる。
そして他社とは差別化された無二のコンセプトなので、リピーターの口コミを促す。昨今はSNSもうまく機能させているのだろう。継続性のある理想のマーケティング戦略だ。何れにせよ一つのブランドが半世紀も続いているというのは凄い事だ。
この居心地のよい空気感、ビールでも飲みながら店内で寛ぎたくなる。使い古された大ぶりのレザーソファにでも深々と座って。ここのオーナーゲン垂水さんは齢80の、石津謙介さん直系弟子で、今も時々店に顔を出されるそうだ。つまり日本におけるメンズファッションの草分けだ。
僕の20代はイタカジだったのでIVYファッションにはあまり興味なかったが、それでも石津さんの本は何冊か読んだし、写真集“TAKE IVY”は今もたまに眺める。やはりそこには時代を超えたファッションの本質、そして普遍性があるのだろう。留学先にコーネル大学を選んだのも、多分にその影響もあったと思う。
特定の客層にとり、ファッションは単なる流行でも機能でも無い。スタイルや哲学思想の表現でもある。クリエーターのそれと自分のそれが合致する衣服を身に纏うと、自由になれ、元気になれ、勇気まで湧いてくる。芸術や文学にも通じる話だ。
※IVYファッション
1950年代にアメリカ東海岸にある名門私立大学の通称「アイビー・リーグ」の学生の間で広まっていたファッションを基にしたメンズファッションのスタイル。
1960年代に石津謙介氏によって紹介され、日本でも独自の文化として流行したファッションスタイルでもある。