こんにちは。ERIです。
2018年1月中旬からデンマークのフォルケホイスコーレに留学します。
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留学を決めてから「デンマークのフォルケホイスコーレに行く」と大勢の人に伝えてきましたが、「フォルケホイスコーレってなに?」と聞き返されなかったことは一度しかありません(笑)
まだまだ日本では(北欧以外では、というのが正しいのかもしれません)知名度の低い教育機関なのだと思います。
そこで、今日は私が理解する範囲で”フォルケホイスコーレとは何なのか”について書いてみたいと思います。
北欧全体に約400校、デンマークに約70校ある、成人向けの寄宿型の私立学校です。
「リカレント」の場なのかと聞かれることがありますが、私は「リカレント」と「リトリート」の間の子、と捉えています。
行政の手当があるため、授業料、寄宿料、一日3食の食費その他含め、平均10~15万円/月ほどで通うことができます。
私は4ヶ月弱留学するのですが、費用は40万円ほどです。(これはデンマークのびっくりするほど高い物価を考えると破格です)
滞在期間は、数週間から10ヶ月が一般的なようです。
デンマークのフォルケホイスコーレに関して言えば、デンマーク語が中心ではあるものの、中には英語を使って授業を行う学校もあります。
ちなみに私の留学先は、授業によって使われる言語が異なるそうで(デンマーク語か英語)、ただデンマーク語の授業に関しも英語の通訳がなされるようです。
なお、学校によって生徒の国籍は異なり、私が訪れたことのある2校のうち片方は日本人(!)とデンマーク人が半々くらい+その他ヨーロッパの国の出身者で構成されており、もう片方はアジア、アフリカ、中東、ヨーロッパ出身者とバラエティ豊かでした。
基本的には、就職前もしくは少し働いた後に、一度立ち止まって自分の人生を考えたいと思っている20代のデンマーク人が最も多い印象です。
科目は、人文科学、福祉、デザイン、芸術、スポーツ、音楽など多岐に渡ります。
入学試験はなく、17.5歳以上の全員に入学資格があります。(学校により、言語スキルなどの基準を設けている場合も)
また、在学中も試験や成績といった概念は一切ありません。
一方で、仮に一年間通ったとしても、単位や資格などは取れません。
私の周りにも、MBAを始め、専門性を磨くためにキャリアを据え置いてアカデミックな場に戻る人は少なくありません。
政府もリカレントのための費用の計上を考えるような時代なので、これはごく普通のことだと思います。
でも、フォルケホイスコーレに留学したところで、専門性も身に付かないし(一部除く)、単位や資格の取得は望めません。
では、なぜわざわざ数十万円も払って北欧の小国に留学する人がいるのか。何が特別なのか。
おそらく私を含め多くの留学生が惹かれているのが、その思想・コンセプトだと思うので、そのバックボーンとなるフォルケホイスコーレの歴史について簡単に書いてみます。
デンマーク語で、”フォルケ”は人々/民衆、”スコーレ”は学校/大学を意味し、フォルケホイスコーレは”民衆のための学校”を指します。 19世紀前半に、「成人教育の父」と呼ばれるグルンドヴィの思想のもと生まれた学校です。
当時のデンマークでは、フランスの啓蒙思想やドイツ文化の立場からデンマーク語やデンマークの農民文化を軽蔑するコペンハーゲンの知識者層と、それに抗う農民、という構図ができていたようです。
「民衆が自由に発言し、知りたいことを自由に学ぶことができ、官僚や知識人たちと対等に立つことができる社会にしたい」
真の民主主義の実現を目指したグルンドヴィは、国民の大多数を占める無学な農民たちこそが、高いレベルの学問を身につける必要があると考えたそうです。
当時は聖職者と学者のための学校ばかりで、死んだ言葉(ラテン語)の暗記・詰め込み教育がもてはやされていたようですが、グルンドヴィはそれを批判し、学びたい者が誰でも学ぶことができ、生徒と教師が生きた言葉(デンマーク語)で対話を重ね、生の神秘を知り、ゆるやかな自己認識に至る、互いの人間性を高め合えるような学校をつくろうと訴えました。
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彼が目指したのは、官僚や商人、手工業者、農民の子弟たちが分け隔てなく交わり、相互作用を及ぼし合うフォルケホイスコーレ。グルンドヴィは、将来官僚となる人達が、階級的な上下関係を頼りにせず、また民衆たちもデモクラシーを支え形骸化しないよう働き合う共同体を構想しました。
(清水満氏著『生のための学校』参照)
…なんだか難しいですが(私も理解しきっていません笑)、要は
・真の民主主義の実現
・個人の人間性の向上
が目的につくられた機関なのかなと思います。
実際、デンマークにいると、日々至るところに”民主主義精神”が垣間見えますし(またいずれ書きます)、問題が起きた時にそれをピンチではなく物事を抜本的に改善するチャンスと捉えて前向きに手を打つ場面に出会います。
また、デンマーク人は自分のコンフォートゾーンを知ってそれを大切にし、また他者がそうすることも尊重するような印象があります。(これもまたいずれ書きます)
その意味で、フォルケホイスコーレは間違いなく今のデンマークをデンマークたらしめている様々な価値観の浸透に一役買った教育機関なのだろうと思います。
余談ですが、デンマークは今やクリーンエネルギー大国。
全電力消費量の半分以上を再生可能エネルギーでまかなう国に成長しています。
このきっかけとなったのが、1970年代のオイルショック。
解決策として政府が推した原子力発電に異を唱え、環境にやさしい風力発電を利用しようと声をあげて実現を下支えしたのも実はフォルケホイスコーレなのです。
デンマークは、言わずと知れた幸福大国です。(2012年に始まって以来、世界幸福度ランキングの上位にほぼ毎年名を連ねています)
私の個人的な考えですが、人が幸せを感じるのは、安心して自分の心に素直に行動できる時ではないでしょうか。
デンマークでは、人々が自分・他者のコンフォートゾーン(違い、と言い換えられるかも知れません)をごく自然に尊重しており、かつ(高い税金の代わりに)整った福祉制度により国民の基本的な生活が保障されています。
綺麗事でなくこれが成り立っているのは、きっと”違い”にもとづく民主主義や、富を分け合って国全体として裕福であることを目指す国民の精神こそが、デンマークを経済的に強くしてきたからですね。
こんな土壌があることで、デンマーク人は精神的にも経済的にも安心して自分の心に素直に行動することができるのではないかと思います。
バックグラウンドの異なる人間同士が近い距離で生活をともにし、対話を重ねる。
その中で自分自身についての理解を深め、他者との関係を見つめ直し、異なる人達とともに幸せにしなやかに共生する術を身に付ける。
と同時に、多数決で物事を決めたり地位の高い人の意見に従うなど、他人と自分との違いを殺すのではなく、それを生かして何かを解決したり生み出したりすることを学ぶ。
文字にするととてもシンプルなことですが、フォルケホイスコーレが実践するこのやり方こそが、”違い”を強さに変える民主主義であり、ここにデンマーク人の幸せな生き方のヒントが凝縮されているのではないかと期待しています。
2017年9月に訪問したBrandbjergフォルケホイスコーレ
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北欧デンマークに学ぶ、豊かな毎日のつくり方 LIFE SHIFT in Denmark
第15期 ミッションマネジメントクラス受講生 ERI