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【 ROCKY通信 】第189回 保育園が抱える社会課題

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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
 

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皆さんのお役に立てましたら幸いです。


 
 

【 ROCKY通信 】第189回 保育園が抱える社会課題

 

もう10年以上前の話だが、自分の子供がお世話になっていた保育園の若い先生たちが一斉に退職したことがあった。表面的には何ら問題も無いように見えていた保育園だったので驚いた。一斉にということは個人的な事情ではなく、運営方針に関する何らかの問題が起きたのだろうということは想像がついた。今回奇しくも3名の社起大関係者が保育士の労働環境をテーマに取り組んでおられ、ヒアリングを通じて保育園運営における根深い社会課題について知ることが出来た。

 

ヒアリングさせて頂いた誰もが保育士の労働環境に危機を覚えている。これは園児の安全の問題にも直結するものだ。3人は元現場主任クラス、現職園長、現職理事長と各人の役割は違うが、共通の課題として挙げているのが「若手保育士の早期退職」だ。統計的にも5年以内の退職率は50%を超えるという。また保育士の有資格者の6割が、資格とは無関係の仕事で生計を立てているそうである。つまり全体的な構図は、大学や短大で保育について学び、夢を持って現場に赴任した若い保育士たちが

・職場の人間関係

・仕事量の多さ

・給与水準の低さ

に悩んだ結果、離職しているというのが現状のようである。

 

3人の話によれば、この真因は根深いところにあり、複数の事情が絡み合っていることが分かった。現場で起きているこの問題は、現場管理者のマネジメントの問題だけではなく、行政や関連法律にまで及ぶ内容だ。

 

保育は一歩間違えれば命に関わるという認識も3人の一致した意見だった。園が人件費削減に走るあまり子供達に目が届かなくなり、気付いた時には園外に逃走したり、乳児がうつ伏せになったまま呼吸困難になったり、昼ごはん中に食べ物を喉に詰まらせたりするという。

自分の子供を預けておいて何だが、そんなことまで考えた事は一度もなかった。自分の仕事のことで手一杯で、保育園に預けさえすればきちんと育児をしていただけるものと思い込んでいたから今更ながら恥ずかしい次第だ。

 

 

保育園の法人形態も現場運営に大きく影響を与えるそうだ。現在、大きく4つの類型がある。社会福祉法人、民間企業、NPO、地方自治体。最近問題となっているのは、10年くらい前に、規制緩和されて異業種から参入してきた民間企業による保育施設だ。待機児童問題が大きな社会課題となっていた時代背景から一気に参入が起こったそうだ。浅い経験、運営能力で社会的ニーズがあるのをいいことに認可無認可を問わず保育園を開設していった。

保育の理念もなく、ビジネスのためだけに奔走した結果、経験不足の保育士による事故も絶えないそうだ。厳しい人件費コントロール(保育園の主要経費は人件費)のため前線の若手保育士に仕事がどんどん降りかかり休憩時間も満足に取れず、持ち帰りの仕事も多いそうだ。また少ない人数で回しているので上司に悩み事の相談もできず、疲弊のため退職に追い込まれるという。保育士には心身のゆとりも必要だ。先生にスマイルがないと子供も幸せになれない。

 

 

  

ところが今や待機児童問題も一旦は終止符が打たれ、一時は入園を断っていた時期もあったそうだが、今度は林立した保育園同士で園児を奪い合うという様相を呈しているそうだ。そして園児減となると収益減となり、一段と人件費管理が厳しくなっているという。負のスパイラルだ。保育園の収益(売上)に該当するものは、行政からの助成金で、園児一人当たりいくらと換算されるので、一定の園児数を確保しなければ赤字経営となり存続できない。

 

実は行政にもいくつかの課題がある。保育園の認可基準が70年間も変わっていないのだ。これも時代に則したものに変える必要がありそうだ。運営に関しては行政から定期的な外部監査を入れているそうだが、外形基準(保育士と園児の比率、広さ等)さえ満たしていれば良く、その先の労務環境や事故予防といった運営課題には原則ノータッチとのこと。

 

保育園のような福祉の世界は純粋に営利ビジネスと同じ物差しをそのまま当てて評価するのでなく、異なる指標が必要になる。同じ物差しでは子供の安全が担保できなくなるし、健全な保育ができなくなるから。保育園運営はソーシャルビジネスなのだ。保育園の本来の目的は仕事で都合がつかない家庭の「親代わり」である。親代わりに勝るとも劣らない保育を実現するための指標は定量化が難しいが、その一つには保育士の定着率というのもあるのではないか。


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