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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
このROCKY通信では、皆さんが、人生やビジネスのヒントとなるようなお話をさせていただければと思います。
皆さんのお役に立てましたら幸いです。
以前、食物販や飲食の業界にいたので今も一消費者として気にして業界ウオッチしている。プライベートで通うのは、基本的には個人経営の味よし、接客よし、コスパ良しの店なのだがたまにはチェーン系の店にも行く。既に全国チェーンになっているところにはあまり足を運ばないが、ローカル色の強い個性的な地元ソウルフード系チェーンは好きだ。
その代表格が僕の生地でもある北九州市発のうどんの「資(すけ)さん」、静岡に行かないと食せない炭焼きハンバーグの「さわやか」、函館にしかないチャイニーズ・チキンバーガーで有名な「ラッキーピエロ」といった中堅チェーンだ。どの店も異常にこだわりが強く、地元民の“おらが店度”は群を抜く。直接競合の全国チェーンが近くに出店してきても、勝負にならない。
今日はうどんの「資さん」の強さの秘密について探ってみたい。初めて同店を訪れたのは意外に遅く10年ほど前だ。北九には僕が幼少期から帰省のたびに通った、一番好きなうどん屋が既にあったからだ。まあそんな話はいいとして、初体験の感想は「あらゆる客層のあらゆるニーズに応えられるコスパの良い業態、恐るべし資さん!」というもの。味以上に使い勝手の良さに感心した。
特にメニュー戦略。まだ資さんがファンドに買収される前の話だ。この店が近所に来たらうどん屋はもちろん、ラーメン屋はおろかファミレスだろうが根こそぎみんな持っていかれるな、というもの。唯一対抗できるのは優良な回転寿し店くらいか。さらに追記すると、現在の資さんは会社をあげてSDGsにも真正面から取り組んでいる。このあたりは現オーナーが大手ファンドだということもあろうが、飲食店が高らかにそれを宣言しているのは素晴らしいと思う。
ランチタイムからアイドルタイムは主力のうどんと北九名物かしわ飯のおむすびで完結。ちなみに丼ものもなかなかいける。特にカツ丼がいい。
アイドルタイムにはシニアグループがゆったり食事を楽しんでいる。そして夕方以降はビジネスグループがだしの効いたおでんで軽くビールや酒をやってからうどんで仕上げ。居酒屋の代替ニーズ。週末はファミリーが大勢でやってきて、盛り上がっている。そして全時間帯、資さん名物のおはぎ(ぼた餅)のテークアウトがあり客単価を引き上げる。ロケーションはロードサイドに多く、ファミレスなんかはたまらんやろうね。
1号店は1976年に北九の工場地帯にある労働者の多い町に生まれたそうだ。そういう町で鍛え抜かれた業態は強い。味は必然的に濃くなるが、ボリュームがあって、店員は愛想がよく、そして値段も優しい。販促は圧倒的に口コミ。マーケティングの4Pがきちんと整合しているのだ。
ナンだかいきなりマーケティング論になってしまったが、そもそもうどんというのは福岡発祥だそうだ。鎌倉時代に中国から禅僧が持ち帰ったのが発端らしい。特徴はアゴだしをベースとしたやや甘めの濃いつゆ汁に、柔らか目の麺。これを少し鍋で合わせて煮て麺にやや味が染みたのが美味い。個人的には肉うどんが定番で、甘辛く炊いた牛肉が汁と混じってナンとも言えない深く優しい味わいとなる。
関東人には甘ったるい!関西人には汁が濃すぎる!とツッコまれそうだが、その味に馴染んできた僕にはそれがベストだ。蕎麦は江戸前だが、うどんは関西でも讃岐でもなく、北九だ。
現在の経営は創業者の手を離れ大手のファンドによるものだ。このローカル色強いうどん業態が、ファンドとの掛け算によってどこまで大きくなれるのか興味深い。販促にはSNSを駆使し、資金力をバックにスピーディな出店攻勢をかける。今年11月についにうどんの本拠地とも言える大阪に初上陸するそうだ。これはどうなるか見ものだ。
味は決して関西人好みではないが、やってみなければわからない。開店時には北九出身者が大挙して押しかけるだろうが、ポイントは純関西人にあのうどんの味、食感が通用するか?だ。ここを突破できれば次は首都圏がターゲットなのだろうが、より味やコスパに厳しい関西を制覇できれば、関東は訳なく成功できることだろう。これまでうどん業態で全国制覇したチェーンは丸亀製麺くらいしか記憶にないが、その勝負も実に見ものだ。