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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
このROCKY通信では、皆さんが、人生やビジネスのヒントとなるようなお話をさせていただければと思います。
皆さんのお役に立てましたら幸いです。
先月のロッキー通信でサービスの危機について書いた。多くのサービス業で極端な効率化を進めるあまり、その著しいレベル低下を嘆いたものだ。
しかし、、、その後に真逆の「感動のサービス」を受けることとなり、日本のサービス業における希望を持つことが出来たことを報告したい。それは伝説のサービスで有名な米国の百貨店ノードストロームやホテル業界の最高峰ザ・リッツカールトンでもなく、日本の一地方の流通企業での体験談だ。
実家の母から風呂場のシャワーヘッドとホースを取り替える相談を受けていた。30年使っているものの機能は問題なかったのだが、先月地元のCOOPやまぐちの営業チラシに節水率70%という触れ込みのチラシをもらい、買い替えたいと思ったようだ。いいんじゃないの?と生返事をしていたのだが、早速購入していた。
ところがいきなり問題が発生。既設のシャワーホースは蛇口の根元に付けられているのだが、それがどうやっても外れないのだ。金具同士でしっかりコネクトしてあり、あらゆる家庭用工具を使ってもダメ、力ずくで取り外そうとしてもダメ。2日かけて3時間近く格闘した。
商品ボックスには説明書があるが、旧品を取り外した後の新品ホースの設置法しか記載がない。COOPの折り込みチラシも同様。当然と言えば当然だ。既設品はおそらく9割以上の確率で他社製品だからだ。それを外すには、きっと特殊工具が必要なのだろう。母はメーカーの0120番に電話してみると言うが、買ったのはCOOPからだ。まずはCOOPに相談するのが筋だろう。ここ3年近く顧客無視のサービスを体験し続けているだけに、どういう対応になるのかとても強い関心があった。
予測されるのは、「その旧ホースは当社の製品では無いので、当方では如何ともできかねます。すみませんがご自身で解決して下さい」と言う回答。しかし、母に伝えた。COOPは消費者を代表して良い商品を仕入れ、適価で届ける団体。だから、きっと相談に乗ってくれると思うよ、と。
果たして毎週宅配をしてくれているという担当の女性に電話してみた。一通り当方の困りごとを伝えると、彼女は技術者ではないから解決はできないと思うけれど、その日の配達業務が終わる19時過ぎにお邪魔するので現状を確認させて下さい、との返答。まずはその姿勢に少し心がほぐれる。今日はもう遅いからいいですよと伝えると、上司と相談してみますと一旦電話を切った。その後連絡があり翌日昼過ぎに上司がお邪魔しますとのこと。
僕はその日に帰京したのであとは母任せ。当日の夜母から連絡があった。
嬉しそうな声で、「問題解決!」と。無事新しいシャワーヘッドが取り付けられたそうだ。
その上司にあたる方は、担当者とそう年齢の変わらぬ女性だったそうだ。うちに来て問題確認したあと、「これはプロ工具が必要です。もし社に戻ってもそれが無い場合は、我が社で購入して再度直しに来ます」と言い残して帰社したそうだ。それから数時間してまたやって来て、「知り合いの業者のところに必要な工具があったので借りて来ました!」と。そしてあっという間に問題解決してくれたそうだ。
その話を聞いて僕は感動を覚えた。これがCOOPでなければ、放置されるかもしくは対価を支払う条件で配管工が送り込まれたことだろう。顧客第一の企業姿勢もさることながら、担当者のプロフェッショナルなサービス精神、思いやりと責任感。そして企業における権限委譲。久々に心の底からありがとうの気持ちが湧き上がった。
LTVというマーケティング用語がある。Life Time Valueの略語で、顧客生涯価値と訳される。ある企業が1人の顧客から生涯にわたりあげられる価値(つまり収益)のことだ。顧客サイドからいうと、その企業から生涯購入する金額の総計だ。今回の件でCOOPのコストは人件費で、金額換算すれば数千円だったかも知れない。しかしこれを機に、母のCOOPへのロイヤリティはさらに高まったことだろう。そして僕も。結果的にLTVは何倍にもなるのだ。
担当者はそんなつもりで動いたわけでは無いと思う。でもこの世知辛い時代に、人の心が動くサービスをすれば、それは時に商品をも超える競合からの差別化をもたらし、最終的に企業にも収益をもたらすことになるのだ。そして感動のサービスは口伝される。たった2週間で僕は10人近くの人々にそれを語った。そしていつかそれは伝説のサービスとなる。