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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
このROCKY通信では、僕が社会起業家の育成・支援に携わっている中での経験や僕自身の人生での学びや考えをシェアさせていただいています。
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ついにウクライナの屈強なボクサー達が立ち上がった。この10年ボクシング界を引っ張ってきたパウンドフォーパウンドのスーパースター「ワシル・ロマチェンコ」、現在のヘビー級戦線の台風の目である現役ヘビー級王者「オレクサンドル・ウシク」。そして2000年代初頭のヘビー級を王者として引っ張った「ビダル&ウラジミール・クリチコ」兄弟。彼らは世界的に認知されてきた偉大な世界チャンピオンでありながら、祖国ウクライナの民の為に立ち上がった真の勇者である。ボクシングに関心のない方の為に少し解説すると、彼らはボクシングの世界チャンピオンの歴史の中で、上位5%に入るスーパーボクサー達だ。ロマチェンコは今も第一線で活躍しているし、ウシクは昨年ヘビー級王者を獲得した現役2階級王者。そして今回話題のクリチコ兄弟も引退したとはいえまだ記憶に新しい。彼らの活躍は前回のロキ通でも少しだけ触れたが、さらに語らずにはおれない。
ロマチェンコは、ウクライナが産んだ現在のベストボクサーの1人だが祖国のために戦うと自ら志願して兵役に就いた。春には億単位を稼げる試合が決まっていたそうだが、それに優先してグローブの代わりに銃を持つことを決断した。信念の強さを感じざるを得ない。ウシクは昨年、無敵のチャンピオンだった英国選手からヘビー級タイトルを奪った選手で世界的な評価のすこぶる高い選手である。そして彼も軍に入隊し前線で戦っているという。「祖国はチャンピオンベルトよりも大切だ」という名言を残して。バリバリの現役アスリートである彼らは、ボクサーとしての職業上のミッション以上にウクライナの一国民、キエフの一市民としてのミッション(それはソーシャルミッションと呼べるものだ)の方が優先しているところに感動を覚える。果たして日本が同様の有事に直面することがあった場合、自分は銃を持って立ち上がるだろうか?正直、その段になってみないと分からない。
クリチコ兄弟は、兄のビダルはウクライナの首都キエフの市長としてロシアに抗戦する意思を世界に示し、弟のビダルは今回のタイミングでウクライナ軍に入隊した。ちなみに兄のビダルとは、一度直接話したことがある。7年前にNYのダウンタウンで散歩中に信号待ちをしていた。ふとその脇にあったレストラン店内に目をやると、偶然にもビダルを発見してしまった。店内に入って話しかけるとやはり本人。チャーミングなウクライナ美人の奥様と朝食中であった。話しかけると気軽に応じてくれ、20分くらい雑談した。元世界ヘビー級チャンピオンだったが、随分インテリジェンスのある人だと感じた。後で知ったが博士号も持っているそうだ。冗談で「TVより痩せて見えるね」、と話すと「じゃあここで脱いで俺の身体を見せてやろうか」と服を脱ぐ素ぶりをしてやり返された。ユーモアもある男だった。首都キエフ市長になった話は聞いていたが、まさか今回このような形で再びメディアを賑わせるとは。ボクサーとしての強さでいうと兄よりも評価される向きもあった弟も軍隊入りしロシアと戦っているそうだ。
旧共産圏やラテン諸国では、ボクシングの世界チャンピオンは、ナショナルヒーローとして国を背負って戦うことが多い。もちろん外貨を稼ぐ意味もあるが、強さを示すことで国民に勇気と元気を与えるためもある。そういった意識が彼らを戦争や革命に参加させる動機となっていると思う。そして国民もセレブであるヒーローたちが自ら銃を持つのを目の当たりにし、奮い立つ。だから国としても高名なボクシングアスリートをプロパガンダとして使いたいという意向もあるであろう。
ボクサーというのは、初めは貧困からの脱出という動機でのスタートが多い。しかしホンモノに成長してゆくボクサーは、厳しいトレーニングや減量を経て自律を学び、試合を通じて恐怖を克服することでメンタルも鍛えられ、最終的に人格も陶冶される。“For Others”の精神が醸成されるのだ。それが今回のロキ通で一番伝えたかったことだ。苦境に追い込まれているウクライナ市民が、どれだけこの4人から勇気をもらっていることだろう。改めて彼らに敬意を評したい。そして1日も早く戦争が終わることを祈りたい。