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社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
このROCKY通信では、僕が社会起業家の育成・支援に携わっている中での経験や僕自身の人生での学びや考えをシェアさせていただいています。
皆様の起業のお役に立てられましたら幸いです。
皆さん、東京タワーに登ることはありますか?僕は数年に1度展望台に登ることにしている。いつも夜の8時頃を選んで行く。社会活動と市民生活が混ざり合った時間だ。そこには無数の光が射していて、そこから億単位の様々な人々の存在を連想しつつコスモポリタン都市を感じることができる。ロマンチックに資本主義の集積を感じることのできる特別な瞬間だ。因みに、夜羽田空港に舞い降りる時もその光景を見られる。
先週、東京都主催の創業セミナーでお話する機会を頂いた。リクエストもあったので東京都で起業・創業することについて私見を述べさせて頂いた。東京は日本で唯一のコスモポリタン都市と言え、価値観のダイバーシティ、人口動態や人種のダイバーシティの存在、社会資本の蓄積、文化の蓄積、富の蓄積といったものが存在している。簡単に言えば街に奥行きと幅があるということだ。そして中庸をベースとしつつも両極端が存在する街。地方はそれらの構造が反転するわけだが、価値観として“Less is More”という対極概念もポジティブに捉えられる昨今、どちらが良い悪いという話ではない。
さて、講演でも話したが東京で起業(社会起業も含む)する場合の利点を思いつくがままに列挙してみた。
その1.あらゆる顧客層が存在し、その各層に多数の顧客が存在する
みなさんが漁師だったと想定してみてほしい。東京という大海には日本で最も多くの魚種が存在し、しかもそれぞれの魚の数が膨大。だから機会チャンスは間違いなく日本で最大と言える。
その2.その顧客層の、ニーズ・不が多数存在する
それぞれの魚種ごとに「ニーズ」「ウオンツ」「不」が存在し、それらが全てビジネスチャンスとなる。ただし、魚数が多いからといって、大きな投網で全魚種を捕獲できるわけでは無い。昭和はそれで良かったが、令和の今日は食べたい餌が魚種によってすべて異なるのだ。流行やトレンドはあるとは言え、みなさんピッキーなのだ。飽食時代の魚は餌を選ぶのだ。天候により、水温により、時間帯により、季節により。マーケットインの発想が必須となる。
その3.街の人的・物的な新陳代謝がスピーディ
ヒトもモノもカネも必要とされるところに集結し、そうで無いところから移動する。これは資本主義の宿命でコスモポリタン都市にはより大きなリターン(成果、報酬)を求めてそれらが集まってくるのだ。ただし地方と比べて何をするにも売上を立てるのにより大きなコストがかかるので、分岐点に達しない商品やサービスは退場を余儀なくされる。ビジネスだけでなく、土地や建物だってそうだ。相続税を支払うことが出来なければ、代々の土地は売却されて違うものに姿を変える。
その4.起業しやすい環境
行政も含め支援体制が万全であり、起業のハードルが高くない。事業計画や経験値等のいくつかの前提をクリアできれば、金融機関から金利1%、無担保・無保証で千万単位の借り入れも可能だ。これは僕が起業した四半世紀前には考えもできなかったことだ。ベンチャーキャピタルやファンドも次なる投資チャンスを求めて探し周っている。
その5.起業の成功事例の厚みがある(失敗事例も)
起業数の多い分、成功事例にも厚みがありその具体事例が新たな起業予備軍を呼び彼ら彼女らのモデリングの対象となる。これはかなり大きな意味があると思う。そしてもちろん、失敗の事例の多さも活かせれば次なる成功の糧となる。
その6.EXITの選択肢が多い
事業を起業家が終える時、出口となるのは事業譲渡、公開、もしくは自主閉鎖といったパターンになるが一番多いのが事業譲渡だ。その場合売りに出る数も買い手の数も東京が圧倒的に多いものと思われる。
その7.薄いビジネスの流儀作法
地方とは異なり東京はビジネスにおける流儀作法が薄く、地元に根を下ろしてきた企業やエリアの既存顧客といった方々への気配りや配慮といったものを気にすることなく、自分の信じる成功への道を最短距離で走り抜くことが出来る。ラフに言えば「やったもん勝ち」ということだ。土着性が薄い分自由競争であり、弱肉強食の要素が強い。
確かに東京は国内唯一のコスモポリタン都市であり、政治機能も集積していることもあり、一つの独立国家のように思える時すらある。社会起業という観点ではなおのことそうだ。上記の7つは全体論としてのマスの東京での起業チャンスという文脈で捉えたものである。しかし東京という巨大都市を全体として捉えてしまうのでなく、都内を地域に分解して捉え直してみればまた違った景色が見えてくるのではないか。そこにはさらなる新たなチャンスがありそうだ。