メールマガジンご購読者の皆様
いつもメールマガジンをお読みいただきありがとうございます。
社会起業大学 学長の林 浩喜(はやし ひろき)です。
このROCKY通信では、皆さんが、人生やビジネスのヒントとなるようなお話をさせていただければと思います。
皆さんのお役に立てましたら幸いです。

今回のイベントのチラシ
出不精で外出をいやがる母を迎えに行き、綾小路きみまろのライブを見て来た。20年ほど前、CDを購入して車中で聞いた時期はあったが生講演は初めてだ。日曜日に週末の仕事が終わり一息つく意味もあったが、一度きみまろさんのライブを見ておきたかったというのが本心だ。会場の山口市民会館で当日券を入手した。講演は1時間らしい。それなら母も疲れずに楽しめるだろう。最も興味があったのは話術だ。漫談なので、1人きりだ。相方もいなければ司会もない。映像も音響の係もいない。そんな中でどうやってファンの高齢者を熱狂させるのか?に興味があったからだ。

公称165センチと小さい人なのだが、ステージでは華があり大きく見える。深紅の燕尾服に金の扇子、そしてお決まりのズラ(かつら)で観客に毒ガスを放射する。それも前から3列くらいにいる婆ちゃんを集中的に弄る。たまに爺ちゃんも。ネタは加齢から来る諸々の失敗からルックスの老化にまつわるものが多く、指差しながら素人さん相手にボケたり突っ込んだりしながら漫談は進んでゆく。きみまろさんに弄られつつもみなさんステージ上のきみまろさんとの掛け合いを楽しんでいる。そしてそれを他のお客さんは他人事のように大笑いしている。みんなネタの当事者なのに。笑 でもそのカラッとした健康的な笑いが心地よい。ネタは毒ガスなのだが、観客の高齢者はそれを自虐的に笑い飛ばすその感覚。毒蝮三太夫が公開ラジオの会場でクソババアと連呼し、言われた婆ちゃんたちが笑っていたのを思い出した。きみまろさんから感じたのは、愛だ。ご自身も75歳という微妙な年齢(後期高齢者ではあるが、まだまだ元気)ながら、団塊の世代の仲間たちに毒ガスを吐きつつ、その実「辛いかもしれないけど、頑張れよ先輩!同輩!」という言外のメッセージを感じた。優しい人なのだ。だからファンが離れないのだろうと思う。都市部では一時期ほどのフィーバーは無いが、地方ではそのネームバリューは抜群のようで精力的に活動されている。

「綾小路きみまろという商品」をビジネス的に考察してみよう。マーケティングだ。ターゲットは後期高齢者。ただ観察していると、僕の世代が親孝行でライブに連れてきているパターンが多い気がした。それが5割、残りが高齢者夫婦、あと高齢者の仲間同士といったところか。商品は毒舌漫談。それも高齢者たちの日常における「あるある失敗」「衰える容姿との闘い」「冷え切った夫婦関係」等にテーマを絞り、その辛さや苦しさを笑いに昇華するという手法だ。かつてのビートたけしに近くもあるが、より愛情が感じられるのがきみまろさんだ。価格は1時間で5,500円(税込み)だ。実に絶妙なプライシングだと思う。ちょっとした外食と同じくらいの設定。チケット購入時点で母は高いねえと言っていたが、僕は講演終了時点では、その価値は十分にあると思った。販促手段はチラシや新聞広告がメイン。決してSNSではない。ちゃんとターゲット顧客の行動に整合している、受け渡しもコンビニや会場現地、これも整合している。
きみまろさんの苦労話は知っていた。ブレークしたのは52歳。それまではキャバレーでの司会や森進一、小林幸子、ディックミネといった大物演歌歌手の幕間での漫談余興で食いつなぐこと35年間。そしてライブをCD化し、観光地の駐車場で観光バスのトイレ休憩タイムにそれを流してもらい、口コミでその面白さが口伝したという逸話。その後はTVに頻出され、一大芸人となられたが、ライブで鍛え抜かれた本物の実力は、会場が変われど問題なく発揮される。その日会場でお客さんの様子を感じながらネタを変え変えてのせてゆく。小ネタが多いのに、75歳になってよく記憶が飛ばないものだと感心することしきりだ。ホンモノのプロだ。元来頭の良い人なのだと思う。大事にしなければならない顧客が誰かを知り、KBF(差別化のポイント)をしっかり押さえ、彼女彼らの心身の辛い日常を応援し、励ます。前を向かせる。ご自身のソーシャルミッションをきちんと理解しておられる。ビジネス的にも大成功されているようで、素晴らしい。彼は高齢者を笑いで支えるエンタメ界の社会起業家なのかもしれない。会場を後にする時、福沢七訓(福沢諭吉による遺訓)を思い出した。「世の中で一番楽しく立派な事は、一生涯を貫く仕事を持つという事です」きみまろさんは、マイペースでこれを実践されることだろう。