近年、社会起業家といわれる人たちが注目をされています。社会起業家とは、どのような起業家なのでしょうか?その定義や一般の起業との違いを分かりやすく解説していきます。
社会起業家とはビジネスの手法で社会課題を解決する事業を起業する人のことです。
日本では社会起業家と呼ぶことが多いですが、他にもソーシャルアントレプレナーや、チェンジメーカー(社会変革の担い手)と呼ばれます。
また、社会課題を解決するビジネスのことをソーシャルビジネスと呼びます。そのため社会起業家はソーシャルビジネスで起業する人とも言えます。
2007年に発足された、経済産業省のソーシャルビジネス研究会によると、ソーシャルビジネスの定義は以下の3点を満たすこととされています。
ソーシャルビジネスはその他、社会的企業、社会企業と呼ばれることもありますが、社会的企業の定義を内閣府では以下のように定義しています。
ここで、社会起業家の行う事業はボランティアとは異なるということを明確にしておく必要があります。
ボランティアとは一般的に、自発的に他人・社会に奉仕する人または活動を指し、公共性があり、無償で奉仕するということが前提になります。
しかし、社会起業家が行う事業(社会貢献事業、社会的企業、ソーシャルビジネス)は、継続的に課題解決をはかるために、収益を上げて持続可能なかたちにする必要があります。
ここが大きく異なる点といえます。
資金調達の方法としては、クラウドファンディングや財団などから寄付、国からの助成金、融資や自己資金など様々です。
事業形態も、株式会社、NPO、合同会社など様々です。
社会起業家の取り組む社会課題とは何かについては、「SDGs」(エスディージーズ)を参考にしてみるといいかもしれません。
SDGs(SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS)とは持続可能な開発目標という意味であり、2015年に国連加盟193カ国の満場一致で採択された、世界共通の社会課題解決に向けた目標です。
SDGsには17個のテーマが掲げられています。「貧困をなくそう」「ジェンダー平等を実現しよう」などです。
このテーマをぱっと見ると開発途上国に関わるテーマのようにも見えるのですが、よくよく見てみると私たちにとっても身近なテーマがたくさんあります。
「働きがいも経済成長も」「住み続けられるまちづくりを」「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」など分野やテーマが幅広いですね。
実際、今多くの企業や自治体、そして個人レベルでこのSDGsのテーマへの具体的なアクションがはじまっています。
国内に目を向けても都心への人口集中、地方の過疎化、諸外国で稀をみないスピードで進んでいる少子高齢化、高齢者・障害者の介護・福祉、環境破壊、ひとり親世帯の貧困、地震や台風などでの災害の爪痕、などの社会課題が増加しており、質的にも多様化・困難化しているといえます。
国や行政が取り組み切れない社会課題、それは意外と自分の身近に起こっているかもしれません。
そもそも起業家は、誰かに価値を提供し対価をいただく事業を行っているので、本質的に社会に貢献する存在と考えられます。
古来より日本の商いでは、売り手良し、買い手良し、世間良しの「三方良し」の精神が受け継がれてきました。
江戸時代から明治にかけて活躍した近江商人。近江商人は自分の足で歩いて各地の需要や地域による価格差などの情報を仕入れ、全国的規模の商品流通を行っていました。
こうした商いは、日本経済が発展していく上で大きな役割を担っていったといえます。
近江商人の経営哲学のひとつとして「三方よし」が広く知られています。「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる」という考え方です。
滋賀大学宇佐美名誉教授によれば、「『三方よし』という表現は、近江商人の経営理念を表現するために後世に作られたものであるが、そのルーツは初代伊藤忠兵衛が近江商人の先達に対する 尊敬の思いを込めて発した『商売は菩薩の業(行)、商売道の尊さは、売り買い何れをも益し、世の不足をうずめ、御仏の心にかなうもの』という言葉にあると考えられる。」とのことです。
自らの利益のみを追求することをよしとせず、社会の幸せを願う「三方よし」の精神は、多くの企業の経営理念の根幹となっています。
では、なぜ社会起業家が注目され始めたのでしょう。
そこには行き過ぎた資本主義、営利主義により、起業家の本来の目的である社会への価値提供という観点を忘れ、利益のみを追求してきた歴史的背景があると考えられます。
またそのような中で、人より頑張らなくてはいけない、競争に勝たないといけない、お金を稼がないと幸せになれない。
そこに違和感を感じる人が増えてきたことも要因の一つにあると考えられます。
そのような現代こそ、社会起業家の活躍する時代といえます。
一方で、日本は起業というキャリアの選択肢が海外に比べると一般的でなく、起業しやすい環境ではありません。
それでも、近年起業を検討する人が増えています。ただ、単純に自分が生活できればよい、生活費を稼ぐためだけの起業や、 金儲けをしたいという動機での起業、会社という組織に縛られたくないという独立心からの起業、好きなことをするための起業など起業の動機は様々です。
社会起業は社会課題の解決を目的とした起業であるということが大きく異なると言えます。
あなたが起業をする動機は何でしょうか?
欧米では1990年代後半から社会起業家が誕生し始め、その後日本では、2000年代初頭から社会起業家が誕生するようになったと言われています。
しかし欧米と日本の社会起業家は、特徴や成り立ちが少し異なります。
そこで、日本の社会的背景とともに、2000年代に誕生した代表的な社会起業家をご紹介します。
◆社会的背景
NPO法の成立をきっかけに、寄付税制の改正など、社会起業家が日本で育つための環境が整備されていきました。
当時、政権下(2009年~2012年)にあった民主党の政策と連携したことは、社会起業家の広がりの促進に大きく貢献したといえます。
民主党は、民間非営利活動の促進を結党の理念のひとつに掲げていました。そのため、社会起業家は自ら事業を作るだけではなく、政策提言にも積極的にかかわろうという動きがありました。
「新しい公共」とは、行政だけが公共の役割を担うのではなく、地域の様々な主体(市民・企業等)が公共の担い手の当事者としての自覚と責任をもって活動することで「支え合いと活気がある社会」をつくるという考え方です。
こうしたことから社会起業家が注目される機運の高まりを見せました。
また、2011 年の東日本大震災後の復旧・復興の現場では、社会起業家も含む民間非営利活動と政策が、災害と復興のために被災地における生活の細部に入り込んで、きめ細やかに、そして迅速かつ柔軟に支援を行ったことで、その存在を多くの人々が認知することになったといえます。
以上のような社会的・政治的な動きの中で、下記のような社会起業家が誕生してきました。
■認定NPO法人カタリバ
代表理事 今村久美
大学在学中に任意団体カタリバを立ち上げ。日本の10代の居場所づくりのためにキャリア学習の活動を開始。
高校生にとってナナメの関係と呼ばれる大学生や社会人との対話のプログラムを高校に提供している。
2008年「日経ウーマンオブザイヤー」受賞。東日本大震災以降は被災地の学校の復興支援を行う。文部科学省中央教育審議会委員他を務める。
■認定NPO法人かものはしプロジェクト
理事 村田 早耶香
児童買春という問題の解決のため、途上国での支援を中心に取り組む。2001年の東京大学で行われたシンポジウムをきっかけに、共同代表である青木氏・本木氏と出会い活動を開始。
ITを軸とした自立収益型事業モデルを立案。カンボジアでの問題が解決され、今はインドを活動拠点としている。
■有限会社ビッグイシュー
代表 佐野章二
地域計画プランナーとして活動する傍ら、実態調査や政策提案など市民公益活動の基盤整備を行う。
市民が興味のあるテーマで自由な議論を行う「市民研究講」のなかの「ホームレス問題研究講」から「ビッグイシュー日本版」発行のアイディアが生まれ、2003年9月からホームレス支援雑誌『ビッグイシュー日本版』を創刊。
■認定NPO法人フローレンス
代表理事 駒崎 弘樹
「地域の力によって病児保育問題を解決し、子育てと仕事を両立できる社会をつくりたい」と考え、2004年にNPO法人フローレンスを設立。
日本初の「共済型・訪問型」の病児保育サービスを首都圏で開始、共働きやひとり親の子育て家庭をサポートする。
厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長、内閣府 「子ども・子育て会議」 委員他を務める。
■認定NPO法人育て上げネット
理事長 工藤啓
若者支援をミッションに掲げ、自主事業である「ジョブトレ」(就労基礎訓練プログラム)や、行政との連携事業である「サポステ」、企業との連携事業などを展開。
フリーター・ニート・引きこもりといった現代日本の若者が抱える課題の解決に取り組んでいる。
■株式会社LITALICO
代表取締役社長 長谷川敦弥
自分の命をかけられる仕事は何かを考え、障害者の就労移行支援事業を行っていたウイングルに2008年新卒で入社。
2年目の2009年8月に代表取締役社長に就任。発達障害のある子供に向けた療育・学習支援サービスや、IT×ものづくり教室などのサービスを展開。
2016年に上場。全国に拠点を持ち、従業員は2,000名を超える企業にまで成長をさせる。
■認定NPO法人TABLE FOR TWO
代表理事 小暮真久
マッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルタントとして従事。その後、ソーシャルセクターでの転職を検討している中で、TABLE FOR TWOと出会う。
途上国の貧困と先進国の飽食という「食の不均衡」を解消するため、対象となる定食や食品を購入すると、1食につき20円の寄付金が、TABLE FOR TWOを通じて開発途上国の子どもの学校給食になるプロジェクトを実施している。
■株式会社HASUNA
代表取締役社長 白木夏子
エシカルジュエリー、フェアトレードによる素材を使用したジュエリーを製造・販売している。
世界経済フォーラム(ダボス会議)に参加。2014年Forbes誌の「未来を創る日本の女性10人」に選出。女性経営者としても注目されている。
■株式会社いろどり
代表取締役社長 横石知二
65歳以上の高齢者が約半数を占める人口2000人の小さな町、徳島県上勝町。
この町に住むおばあちゃん達とともに、料理に添える花や葉っぱなどの「つまもの」事業を展開し、売上高2億千万円ものビジネスを成功させた立役者として数々のメディアに紹介されている。
設立は1999年。社会起業家・ソーシャルビジネスの注目によって脚光を浴び、2012年に「人生、いろどり」として映画化された。
※上記に掲載した社会起業家はあくまでも一部です。
こうした背景とともに、社会起業家を育成する教育機関やソーシャルベンチャーに出資を行うファンドも登場していき、社会起業家が生まれる土壌が日本に育っていきました。
社会起業家は、社会課題の解決に向けて様々な形態で事業を展開して、課題解決と収益の両立を目指します。
現在の有名な社会起業家も、学生・NPO経験者・ビジネスパーソンなど様々なバックグランドの出身です。
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