企業訪問レポート

NPO法人川崎市民石けんプラント

ご縁というのはどこかで繋がるものだなと、時々ふと思うことがあります。6月3日、午後から日本理化学工業への企業訪問があり、その日の午前中にもう一社、社会貢献をしている団体に伺えないだろうかと事務局からお話があった時、すぐに川崎市でNPOの理事長をしている友人の顔が思い浮かびました。同じ川崎市なので、どこかいい企業を紹介してもらえるのではないかと期待をしてメールをしたところ、「川崎市民石けんプラントはどぉ?」との返事。障がい者雇用に熱心で、日本理化学工業と比較ができていいのでは?ということでした。

早速、ホームページの「お問い合わせ」で、社会起業大学での工場見学の主旨を説明し、見学をさせて頂きたいとお願いをしたところ、快く受け入れてくださいました。この時、あえて紹介をしてもらった友人の名前を出しませんでした。なんとなく出さない方がいい気がしたのですが、この予感が的中する出来事が...。

訪問当日、何とJRが人身事故で大幅に遅れ、川崎駅を出たのが予定よりも15分遅れ。運よくすぐにバスに乗れたものの、私が地図を中途半端に印刷したばかりに、本来であれば、バス停から大通りを右に行く予定が、地図では左の方が近いように見えたので、その方向に行ったのが間違いでした。迷いに迷って、結局、石けんプラント様にたどりついた時には、30分以上も遅刻をしていました。なんと、理事長自ら私たちを探しに外に出てきて下さっていました。友人の名前を出していなくて良かった...。
その日は猛暑日とも言えるような暑さで、理事長の薄木かよこさんは、節電も顧みず、汗だくの私たちのためにエアコンをつけてくださいました。30分も遅刻の私たちに嫌な顔一つしないで、とってもにこやかに対応してくださって、ほんとに仕事を楽しんでやっておられるんだなという印象を受けました。

1.川崎市民石けんプラントの成り立ち

川崎市民石けんプラントは、琵琶湖で始まった石けん運動がきっかけだったそうです。1977年に琵琶湖で赤潮が大量に発生し、テレビには富栄養化し、真っ赤になった湖面が何度も映し出されていました。この時、リンを含み、湖の水を富栄養化する合成洗剤は使わないようにしようという動きが全国的な展開となっていったようです。

この当時、多摩川でも、合成洗剤の影響で、川面が泡だらけになっていました。そこで主婦のみなさんが集まって、「環境を守る石けん運動」が始まりました。

≪環境を守る石けん運動概要≫
1) 洗剤による汚染を無くす → 合成洗剤をやめて石けんを使おう!
  合成洗剤は石けんと違い、分解性が悪いために環境を汚します。人体に有害なばかりでなく、
  自然界の生態系を狂わせます。泡が消えてきれいに見えても、有害な化学物質は残留します。

2) 油による汚染 → 石けんにリサイクルしよう!
  油は希釈に大量の水を必要とします。固めてゴミに出すと燃焼時に高温となり、焼却装置をいためやすくしてしまいます。

そこで、「かわさき・石けん工場をつくる市民の会」が発足し、一口千円の出資を募り、6,000人の市民から約一千万円の出資金を集め、「株式会社川崎市民石けんプラント」の設立に至りました。

2.ワーカーズ・コレクティブという働き方

川崎石けんプラントでは、自主運営という形式をとっていて、「雇用関係」というものがありません。一人一人が個人資源(知恵・時間・労力・お金)を出し合い、自発的に責任を持った働き方をしています。現時点(2011/6/3)で、障がい者の方の時給は600円。月、7万〜8万円になる方もいるそうです。一般的な作業所と呼ばれるところは月収1万円ほどなので、比較すると格段に高い賃金になっています。

また、ワークシェアをしていて、仕事をするのは週2〜3日で一日3.5時間。金曜日は従業員のレクリエーションやミーティングの日と位置付けられ、工場は稼働していません。

3.株式会社からNPOへ

2005年に工場が現在の川崎市川崎区塩浜に移転されました。これを機に、NPO法人となります。古い工場の跡地を買い取りたいと言った方が、新しい工場を建ててくださったそうです。そして、月々わずかなお金で貸してくださっているとか。その方は、川崎市民石けんプラントのみなさんに工場を貸すこと自体を社会貢献として考えられているそうです。

  NPOになったのは、社会運動をやっていくうえで株式会社ではよくないということと、株式会社では大株主がすべての決定権をもっているけれど、NPOだと自分たちに意思決定権があり、行動しやすいからだということです。が、逆に、全責任が自分たちにあるということで、その重みも感じられています。

4.石けん「きなりっこ」の製造過程

 1) トラックで廃食油の回収
     主な回収先: 公共の場(小学校、保育園など)、事業系(レストランなど)、一般家庭
 2) 廃食油の精製
     「廃食油だから匂いがする」ことが無いように、徹底的に脱色・脱臭し、きれいにしている
 3) けん化
     低温で2日間かけて炊き込み、けん化している
 4) 混合
     石けん生地に炭酸ソーダを混ぜて混合
 5) 粉砕
     粉砕は2ミリメッシュ。これよりも大きくても小さくてもだめ!
 6) 袋詰め
     機械化すると、仕事がなくなってしまうため、袋詰めも一つずつ手作業にしている
 7) 完成

こうして見ると、各ステージごとに石けんプラント様のこだわりがあり、単に作業的に石けんを作っているのではなく、少しでも品質の良いものを作りたいという真摯な気持ちが伝わって来ます。また、廃食油を回収することが目的なので、石けんが売れなくても、回収を辞めることはないそうです。

5.地域への貢献

 1) 川崎市の小学校から出る廃食油を回収し、リサイクルしている
      市内116校のうち、109校(2010年)がきなりっこを使用している
 2) きなりっこはかわさき名産品として認定されている
 3) 工場見学を受け入れている
      海外からの工場見学もあり、機器類の名称は日・英の2ヶ国語で書かれている
 4) 「余剰廃食油バイオディーゼル」など、化石燃料に代わるものを研究している

6.労働に関して


 ・石けんプラントメンバー(ワーカーズ・コレクティブ方式) 10名
 ・地域活動支援センター職員 1名
 ・障がい者(主に精神) 20名
 ・1993年4月1日より、地域福祉作業所として認可される
 ・2007年4月1日より、地域活動支援センターとなる

川崎市民石けんプラント様は、コンパクトな工場ながらも、市内各地から廃食油を回収し、市内のほとんどの小学校にサイクルした石けんを納品したり、様々な国から工場見学を受け入れたりと、活動範囲はとても広く、きれいな循環型の形をした社会貢献企業だと思います。

工場を後にした私たちは、理事長の薄木かよこさんの優しい笑顔が試練を乗り越えて今ある幸せを物語っているね、と話し合っていました。一人一人から千円という比較的出しやすい出資金とはいえ、6千人もの方の賛同を集めるのは大変だったと思います。一千万円集まるのに4年かかったというところにも、絶対に成し遂げるんだという強い意志を感じました。今後は、石けん事業だけに満足することなく、化石燃料に代わるバイオディーゼル燃料の事業化など、さらに新規事業で前に進んで行こうとされている姿勢にも、大いに学ばせていただきました。
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